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「じゃあ藤堂のことも教えてよ」
夕貴は顔を上げて聞いた。
「俺のこと?俺のことなんかつまらないよ」
そう言って食べ終えたラーメンの器にそっと箸を並べて置いた。
所作がいちいち美しい。
プラスチックのコップで水を飲む。
藤堂が飲んでいると、ただの水道水が、何処ぞの山脈から汲んできたミネラルウォーターみたいに見える。
「すっげぇ金持ちだったりするんだろ?」
夕貴は嫌われてもいい勢いで、わざと下品な質問をした。
「ハハッ、そんなのに興味あるんだ。まあ、確かに父親は、会社を三つほど経営してるけど。
これまでは、都内に住んでたんだけど、母親が少し体調を悪くしてね。こっちの別荘の方が空気がいいからって母親と二人で越してきたんだ。
都内のほうには、父親と兄貴が住んでる。兄貴は父親の会社を手伝ってるから」
「へ、へえ……」
思った以上だった。
「なんか凄いな…家もデカイの?」
「うーん…200坪くらいかなぁ…。けど家自体は、そんなに広くないよ。ほとんどが母親の趣味の薔薇園と、あとは駐車場だから」
「へえ……」
それ以外の言葉が見つからない。
夕貴は、黙って食器を片付ける為に立ち上がった。
「今度、夕貴の家に行ってみたいな」
「え?や!それは無理!」
驚いて、トレイを落としそうになった。
「なんで?あの大智って奴は、行ってんだろ?」
「それはそうだけど」
どう考えても、普通の一戸建ての自分の家に藤堂が来る想像が出来ない。
「じゃあ、うちに来る?夕貴の為にゲームとか漫画、揃えさせとくよ。どういうのがいいの?」
「え?えーと…」
どんな家なのか興味はあるけれど、まだ少し勇気が無い。
「そのうちね」
そう言って言葉を濁した。
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