255人が本棚に入れています
本棚に追加
転校生
一瞬、空気が変わる。
藤堂 蘭(トウドウラン)が教師に連れられて、教室に入ってきた。
夏休み明けの私立一宮高校2年1組は、何処へ旅行に行っただの、課題がまだ終わっていないだの、彼氏が出来ただの色んな話題で大騒ぎだった。
それが、藤堂を見た瞬間、みんな黙り込んだ。
(うわ…めちゃくちゃ綺麗な人だな…)
間宮夕貴(マミヤユウキ)も皆と同じように息を飲んで黙り込む。
『綺麗』という言葉は、男性の褒め言葉ではないかもしれないが、やはり藤堂は『綺麗』だった。
すんなりと伸びた身長、手足。
教師の身長から推測すると180以上はありそうだ。
サラサラすぎて、髪が小さな顔にかかってくるのを時折かきあげている細く長い指。
「藤堂です。よろしくお願いします」
ぺこりと藤堂が頭を下げ、その少し低い声の甘さに女子生徒達が思わず、きゃあ、と声を上げた。
「藤堂くんは、都内の高校から転入して来ました。みんな色々教えてあげてください」
生真面目だけが取柄の数学教師、田中がボソボソと言う。
「ほおー」と感心するような声が上がる。
「席は、えー、間宮の後ろ空いてるよな」
「あ、はい」
夕貴は、ピクリと身体を緊張させた。
正直、嫌だ。
夕貴は、身長も低いし、顔だって普通だし、勉強もスポーツも何もかも中途半端。
あんな人が後ろに来たら、万年引き立て役じゃないか。
「よろしく」
藤堂が移動するのをクラスのほぼ全員が見守っている中、彼は夕貴にだけ笑いかけた。
「あ、よ、よろしく」
ただの転校生に動揺してしまう自分が恥ずかしい。
後ろから視線を感じ、動きがぎこちなくなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!