4:出ると噂の・・・

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 突然、そのエルフの口が開いたかと思うと、ねばっとしたものが勢いよく放出された。  雲雀はシエルを庇いながら、その攻撃を避ける。その物質は床の絨毯へ当たり、ジュっという音と共にその部分が溶けた。 「うそっ…溶けた?」 「シエル、僕から離れないで」  雲雀はエルフに対して右手を向けた。相手のサイズを考えてもこの距離ならば十分攻撃は当たるだろう。  次の瞬間、雲雀から光が放たれたかと思うと、エルフは跡形もなく消えていた。あっけないものである。  …しかし、転んでもただでは起きぬのがエルフという生体である。  消えたのはその体だけだったようだ。一見何の形跡もなかったが、エルフの置き土産が彼らを襲う。  異臭だ。 「うえっ…なにこの臭い…」 「吸っちゃ駄目だ、シエル…うっ…」  例えるならば、誰かが週末に忘れて帰った弁当箱を開けてしまったような…この部屋全体がその中身であるかのような、腐敗した臭いが瞬時に部屋に広がり鼻を刺激する。  あの小さな体でここまでの臭いを残すとは、完全に見誤っていた。  とっさに雲雀は手をかざし、部屋の窓や扉の全てを開けた。一気に開け放たれた窓から雨風が入り込み、ヒューッという音とともに暖炉の火が消える。  部屋は一気に寒くなったが、風が入ることで臭いが薄まり、ふぅっと息ができるようになった。  しかしここでもがあった。あまりの臭さに手元が狂い、換気には関係ない棚などの扉まで開けてしまったのだ。 「うえ~~何この臭い!くっっさい!!」 「あっこら、ラーナ!今出て行っては…!!」  そう、ここで言う『誤算』というのは、雲雀たちにとってではない。  居間の片隅に置かれた食器棚。その中に隠れていた人物にとっての誤算だった。
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