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現在――ユトピア歴996年
執務室は真っ暗だ。
部屋のノック音で雲雀ははっと目を覚ました。手はロックグラスに添えられたままだ。グラスの氷は半分ほど溶けている。
久しぶりに酒を飲み、うっかり眠ってしまったようだ。
…懐かしい夢を見た。
「雲雀様?…お休みでしたか?」
入口からの光に思わず目をつむる。雲雀は手元の明かりをつけ、入口に立つ自分の側近へ声を掛けた。
「いや……あの子は戻ったか?」
「はい。裏口でございます」
「…分かった」
雲雀はゆっくり立ち上がった。側近とすれ違い様に、彼に労いの言葉をかける。
「遅くまですまないな、ネール。明日は昼までゆっくりするといい」
「はっ。ありがとうございます」
部屋を出る前に、雲雀はふと思い出して彼に尋ねた。
「……ラーナは元気にしているか?」
「え?あ、はい。…もう3日も研究所に缶詰のようですが」
ネールは肩をすくめて笑った。
「…そうか、彼女も頑張ってくれているんだな」
あれから18年。現在、朱雀の国の研究者として働いているラーナは、しばしば家に帰れないほどに忙しいことがあるという。きっとそろそろ発狂している頃だろうと思うと、その光景が目に浮かぶようで雲雀は自然と微笑んだ。
「ラーナに…次の休みには子どもたちも連れて久しぶりに遊びに来て欲しいと伝えてくれ」
「…はい。……喜びます」
ネールは嬉しそうに微笑み返事をした。
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