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自室へ戻った雲雀は大きくため息をつき、椅子に深く腰かけた。亡き妻の写真に語りかける。
「ルーラン湖か…シエル……ふ…まいったな」
自分がシエルにプロポーズした思い出の場所へ、今日は娘と彼女の友人が出掛けていたという。
季節もちょうど、今くらいの時期だった。
シエルとの夢を見たのも、何か意味があったのだろうか。
「しかし…古い建物って……まさか……」
彼らが雨宿りしていた建物は例の古屋敷かもしれないが、雲雀は首を振って考えるのをやめた。
雲雀にとって、娘のMJはシエルの最後の忘れ形見。日に日に愛する妻に似てくる娘への心配は尽きない。
そのせいか、彼女に近寄る男性に対して雲雀の牽制は恐怖心を与えることがあるという。それは雅に対しても例外ではない。友人としてならば、もちろん仲がいいことに越したことはない。しかしそれ以上はそう簡単に許すつもりはない。
もっとも、二人の様子を見る限り『幼馴染』の域を出ていないのだが、父親としてここは目を光らせておかなければ。
少々過保護が過ぎるというのは、周囲からも言われているし、自覚もしていた。
しかし世の中の父親というものはそういうものではないのだろうか。
雲雀は自分の友人たちのことを考えた。彼らも同じ年頃の娘を持つ父親だ。
「……」
少し考えて、雲雀は首を振った。友人たちの親子関係はあまり参考にはならなさそうだ。
雲雀はグラスに少量の酒を注ぎ、それをぐいっと飲み干す。そして再びため息をついた。
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