702人が本棚に入れています
本棚に追加
代金を支払い、商品を受け取った高城さんと、流れでエスカレーターに乗る。時刻は午後6時前。早く帰って夕飯の用意をしなければ、と百貨店を出る直前。
「よかったら、夕飯でも一緒にどうかな?」
高城さんが優しい口調で言った。顔を見るが、笑顔なだけで何を考えているのかわからない。
「なんで?」
「ネクタイ、選んでくれたお礼に」
「は?」
意味がわからない。選んだというか手に取っただけだし、支払いをしたわけでもない。
「ダメかな?」
逆になんで良いと思ってんの?
この前の夕食後のことを思い出す。あの時は本当に腹が立った。だけど、食事中はそうでもなかった。むしろこんな人がパートナーだったら、毎日きっと楽しい。そんなことを考えていたっけ。
「ダメです。俺、帰って夕食作らないと」
眩しい笑顔から逃れるように俯く。別に嘘をついたわけじゃないのに、なんだか心苦しい。
ん?メッセージ?
俯いた拍子に、時刻を確認してから手に持ったままだったスマホの画面が見えた。新着メッセージの通知が来ている。香奈からだ。
そのままメッセージを確認する。
『夕食は任せて!お兄の分は葉一が食べちゃった。たまには外で食べてきたら?』
という内容に、写真が一枚添付されていた。ドヤ顔の香奈と、いつもの食卓についてカレーを囲むみんなが写っている。
「ちょうどいいじゃない。今日は僕に付き合って」
ハッと顔を上げると、満面の笑みを浮かべる高城さんと目があった。背が高い高城さんから、俺のスマホの画面は丸見えだ。
香奈のバカ!!なんてタイミングだよ……
「恵介くんは嫌いなものはある?何がいいかな」
高城さんが自然と俺の腕を引いて歩き出す。その背中はとても嬉しそう。
もう、好きなようにしてくれ!!
最初のコメントを投稿しよう!