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「尾上警部」
振り向くと、所轄駐在所から派遣された平塚巡査が敬礼の姿勢で立っている。
「目撃者を連れてまいりました。教祖の世話役だそうです」
青白い顔の、痩せた女を伴っていた。
「ご苦労。話は私が聞く。君は吉田君を手伝ってくれ」
顔なじみの若い巡査に指示を与えると、手帳を取り出して女と向き合った。
「世話役とは、普段どんな仕事をするのかね」
事件とは直接関わりのないことから尋ねたのは、相手の緊張を解くためだ。
「お着替えなど、千姫様の身の回りのお世話をさせていただいております。その他には、客人の接待なども」
「なるほど教祖は千姫というのか」
政界にも信者がいるという千姫の噂は耳にしていたが、敢えて知らないふりをする。
「はい。大変な霊力をお持ちの、巫女様でございます」
「ここには長いのかね?」
「かれこれ十年ほどお世話になっております」
伏し目がちに話す女からは何の感情も伝わってこない。恐ろしい惨劇を目の当たりにし、一時的な麻痺状態にあるのだろうが、話は聞けそうだった。刺激しないよう、もの柔らかに尋ねる。
「あなたも辛いでしょうが、捜査のためです。何があったのか、一部始終を話してもらえますか」
こくりと一つ、からくり人形のように頷いた後、女は訥々と話し出した。
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