moonight -月と夜-

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 東京都立海源(かいげん)高等学校──国内でも進学校の一つとして有名な高校。卒業生は皆一流大学に進学し、その後は大手企業へ就職している生徒がほとんどだ。未だ学歴主義が拭えない日本では、幸先の良い将来を手に入れる為に各地方から生徒がやって来る。  卒業生の中には有名人も多く、その中で一番有名な卒業生が映画監督・月ヶ瀬(つきがせ)優翔(ゆうと)だ。まだ34歳と若いながら、アカデミー賞にて作品賞でノミネートの経験もある。彼が映画を撮れば、国内・海外と映画賞を総なめにするなど日本が誇る映画監督の一人だ。 「おー、変わんねぇな」  月ヶ瀬は「海源祭」と書かれた手作りゲートを潜ると、生徒たちからチラシを受け取りながら奥に進んでいく。「高校生、若ぇなぁ……」と文化祭ではしゃぐ生徒たちを見ながら呟くと、記憶を頼りに職員室に向かった。中には何人か疲れ果てた教師が椅子に座ってぐったりしている。 「おー、月ヶ瀬」  一人が月ヶ瀬の存在に気が付くと、手を振って近寄ってきた。「よっ」と月ヶ瀬は挨拶をする。 「久しぶりだな、天親(あまちか)」  丸眼鏡が印象的な天親は昔と変わらない笑顔を浮かべると、「変わんねぇな」と月ヶ瀬が言う。美魔女かというほど、大学の頃から変わらない。髪は相変わらずふさふさだし、肌もハリがあるし、腹は出てないし、羨ましい限りだ。「お前もな」と天親が月ヶ瀬の脇腹をつつくと、笑い合う。 「今なんか映画撮ってんの?」 「最近撮ったよ。今は編集中」 「いやー、お前も大きくなったよな。忙しいんじゃねぇの? 誘ったら秒で行くって来たからビックリしたわ」 「インプット大事だからな。それにこういう機会じゃないと母校なんて来れねぇだろ? 天親みたいに教師じゃない限り」 「確かに」
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