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俺にはわかりやすくやる気というものがない。そう自覚したのは小学生の頃の体育祭だった。同級生の中に一人はいる行事やお祭りでやたら張り切る男子達と自分の中の温度差を感じた時だった。
どうして、あいつらはあんなにやる気になれんだろう? 別に結果を残したとしても、数日たてば忘れてしまうくらいのものだ。ああ、楽しかったと思えるほどの出来事じゃないか。そう思ってしまった。
部活も、授業も、運動も、そこそこできて、自分の中に欠点らしきものを感じられなかったかもしれないけれど、やっぱり俺にはやる気というものがないらしい。
『それは違うと思うぞ。少年』
高校生になって、部活動の勧誘発表会を適当に眺めていた俺に部長は言った。
『君にやる気がないわけじゃない。たぶん、君の中にあるエンジンが起動してないんじゃないかな?』
『何が言いたいっすか。先輩』
『なーに、こんな萎びたもやしのような後輩を見かけて、ついついお節介をやいてしまう先輩なだけさなんてかっこいいこと言ってるけれど、うちの文芸部、部員不足で廃部寸前なんだ』
『…………はぁ』
『君の中にあるやる気ってやつが見つかるかもしれないぜ? 少年』
『いや、今更、言い直しても遅いですって』
廃部寸前ってはっきり言ってるし、ていうか、誰が萎びたもやし野郎だ。このやろー!!
『てへぺろ』
『うざっ』
それが部長との出会いで、万年発情している天然記念物達との出会い(こちらは早急に忘れたい)で、
「特に何もなく終わったなー」
まさか、バカップル達の不純異性交遊が原因になるとは思わなかったけれど、俺の中にあるやる気というものは見つけられないままだ。
適当に部室の掃除を終わらせて、俺はいつも通学用に使っている自転車に跨がる。どうでもいい思い出だったけれど、楽しいことはなかったわけじゃない。まぁ、いいか。明日はどうしよう。
部室の掃除めっちゃめんどくさいなー、お腹すいたなーコンビニよるか。なんだか雨が降りそうな空だな? そう言えば筋肉だるまが何か言っていたような?
ーーーーーーーーーーーーーーーチンッ。
何か、音がした。金属が擦れる音。気がついた時には自転車から放り出されていた。
「…………え?」
右足が熱い。立ち上がろうとするのに、立ち上がれない。どうして、なんだ? 何が起こっているだ? どうして、なんで、右足が。自転車が倒れてカラカラと空回りしていて。
黒髪に真っ赤なワンピース、そして日本刀を持った少女。ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。真っ黒に汚れた裸足のままこちらに歩いてくる。
ぶんっと日本刀を一振、真っ赤な血がコンクリートの地面を汚す。誰の血だ? 誰の血? 誰の?
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
筋肉だるまの担任が言っていた不審者!! 睡魔と戦いながら頭の片隅に放り込んでいた不審者の情報。
「………」
日本刀少女は無言でこちらを見下ろしている。その瞳には光らしきものは何もない。ただ、獲物を追い詰める怪物の目。死がこちら側まで近寄ってきている。
漫画や小説で登場する日本刀、写真やイラストで見てかっこいい日本刀とはしゃいでいた自分が恨めしい。あれは人殺しの道具なのだ。おもちゃじゃない。
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。死にたくない。死にたくない。死にたくない、な、なぁ、なぁ、お金ならないけどさ。こんなことしてなんの得があるんだ?」
「…………」
「しゃ、喋れないのか? どうしてこんなことしてるんだ?」
何も答えてくれない。無機質な瞳だけがそこにある。俺は思いっきり鞄を放り投げた。
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