おはよう。そしてさようなら

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単なる目眩ましだ。鞄程度で日本刀を防げるとは思っていない。俺は重い身体を引きずるようにして、俺は地面をはう。はう。はう。ナメクジのように地面を這って、真っ赤な血が地面を汚す。 少しでも、ほんの少しでも長く生きるために。なのに、ドンッと地面を蹴る音と共に日本刀の切っ先が手の甲を貫く。 固いコンクリートの地面を容易く貫き、その場に釘付けにされる。逃げられない。がむしゃらに手をふるい日本刀少女を追い払おうとするけれど、簡単に避けられる。 そのまま日本刀を引き抜くと切っ先がこちらを向く。それと同時に見てしまう。俺の、俺の右足がない。どこにもない。 日本刀が振られ、今度は左腕が斬り落とされる。痛みはなく続いて左足、次は右腕が斬られていく。芋虫のように転がる。どくどくとおびただしい量の血が溢れだしていく。それなのに今も生きている。 両腕、両足を失い、残るのは首だけだ。日本刀少女は楽しんでいるんだ。獲物をいたぶる快感を。悲痛な最後を見守るために少しでも長く殺すために。 そう理解すると全身の力が抜けていく。俺にはやる気なんてものはない。空っぽなんだ。これで、最後なんだ。 「何をやってるんですかっ!!!!!!!!!」 怒号、そしてぶっ飛ぶ日本刀少女。ついでにパンツ。パンツ? ぱんつーまるみえ? 古いわ!! と余計なツッコミをいれる余裕もない。 トンッと着地した少女。やけに身体が青白くつぎはぎが目立つ体操着にブルマの少女だった。俺がパンツだと思ったのは、ブルマだったらしい。今時、体操着にブルマって。 「どこのどなたか存じませんが、大丈夫ですか?」 ブルマ少女は周囲を警戒しながら俺を見た。身体と同じく顔も青白くつぎはぎだらけだった。 「この、姿を見て、だいじょぶって思えるのか?」 「死にかけというか、貴方、両腕、両足なしで生きてるんですね。すごいガッツさんですね!!」 いや、さっき斬り落とされたんだけどねと軽口を叩く余裕もない。 「あ、あぶない!!」 「…………あら?」 日本刀少女が、ブルマ少女の首を切断し、ポーンっとボールのように宙を舞う。なのにブルマ少女からは一滴の血も流れることなく。 「なにっ、するんですかっ!!」 首を斬り落とされながらブルマ少女は、日本刀少女を思いっきりぶん殴る。生命として完全に終わったはずなのに反撃され、驚きの表情のままとっさに日本刀で防御する。 しかし、防御した日本刀ごとブルマ少女の拳が日本刀少女の身体を吹き飛ばす。防ぎきれないと思ったのか日本刀少女が後退していく。 そのまま首のないブルマ少女は、自身の頭を放置して日本刀少女を追撃していく。 あっという間の出来事だった。 「いやー、斬り落とされちゃいました。テヘッ」 ブルマ少女の首がころりと転がったかと思うも喋った。 「喋った」 「はい。私、ゾンビなので」 「ぞんび…………?」 血が流れて、空は曇り、雨が振りだす。これが死の間際に見る幻覚なのかと思う。もう少しで死ぬのか。俺は、 ふいに空が消えて、真っ黒な傘が視界を遮る。真っ黒なゴスロリに身を包み、金髪碧眼の幼女が俺を見下ろす。よくできた人形のように整った顔立ちだ。 「死ぬのか?」 「え?」 「死ぬのかと聞いている」 「そりゃ、こんな身体になったら」 「そうか、なら、死ね」 「いや、いや、このまま放置。た、助けてくれるとかないのかよ」 「なぜ? ボクに君を助ける義理はないよ。それともボクと君は長年連れ添った友なのかい?」 違う。違うけれど、この幼女には何か助ける方法があるのだ。 「死にたくないんだ。助けてくれ」 「嫌だね。ボクは死にたくないなんて言うやつは死ねばいいと思ってるんだ。そもそも何様のつもりだ? 助けてくれ? 助けてくださいだろう?」 うりうりと幼女に足蹴にされる。俺にはこんな趣味はない。 「助けて、助けてください」 「で?」 「なんでもする。俺にできることならなんでもするっ!! だから、お願いだからっ!!」 こんなところで死にたくない。 「そんなに叫ぶんじゃないよ。本当に死ぬことになる」 ニヤリと幼女が嗤う。 「契約成立だ。大丈夫。ボクに任せておけ、ボクはネクロマンシーだからね」
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