ロー

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柿本 久美子はダッシュボードの時計を見た。 8時27分。 あと3分だ。 再び視線を戻した時、彼女の目は脇道から近づいて来る大きなSUV車を捉えた。 “まさか!” こっちの道に出ようとしている。 T字路まで50メートル。 “ヤバい” ステアリングを握る両手に思わず力が入った。 このままでは、SUV車の方が先にT字路に入ってしまうだろう。 “先に入られたら間に合わない” 今アクセルを踏み込めば、あの車を抑えてT字路を通過出来る。しかし直後のカーブはクランクだ。直角のカーブが2連続しているので、オーバースピードなのは明らかだ。曲がり切れずにガードレールにぶつかってしまうだろう。 その時、ふと久美子の頭をよぎったのは『スリーハンドレッド シックスティー リバース』だった。 “あの技なら、オーバースピードでもクランクをクリア出来るはずだ” だが彼女は直ぐ、その思いつきをかき消す。 なぜならここは公道で、久美子の運転する古いシビックの後部座席には、2歳になる息子、タクミを乗せていたからだ。 「できる訳ないじゃない・・・」 そう呟いて彼女は、T字路から進入しようとしている黒くて大きなSUVを睨んだ。
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