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セカンド
当然、久美子は余裕を持って出発した。いつもより30分は早いだろうか。
その為、タクミが毎日楽しみにしている子供番組を、途中で切り上げる事になってしまった。
大泣きする息子を無理矢理チャイルドシートに縛り付ける。
胸が痛まない訳ではないが、こんな事をいちいち気にしていては2歳児の母親は務まらない。
「はいはい、泣かないで、夕方の再放送を録画しとくから」
8時00分
予定通り出発。
ところがこの後、さまざまなアクシデントが彼女の行く手を阻む事となる。
8時05分
スピードを出せるはずの国道で、まさかの事故渋滞。
8時15分
それなら、と抜け道に入ったが、今度は巡回中のパトカーの前に出てしまい、スピードを上げられず。
8時25分
やっと保育園に通じるいつもの道に入った。
この道は、昔から伊勢神宮に参拝する人々が行き来した街道で、両側に建ち並ぶ古い民家の細い格子戸に、旅籠として賑わっていた当時の面影を知る事が出来る。と役所に努めている久美子の夫が、以前ウンチクを語っていたが、そんな話に全く興味がない彼女にとっては、単に道幅の狭い、微妙なカーブが連続する走りにくい道。と言った程度の認識でしかない。
伊勢街道云々はさておき、それでも道の難易度に関して言えば、学生時代に自動車サークルで、ジムカーナをかじった事のある久美子にとって、こんな道など、さして問題ではなかった。
そう、いつもなら・・・。
しかし、試練はまだ続いていた。
“ヤバっ、あと5分”
なのに、前方に自転車の老人だ。ペダルを漕ぐ度にふらついて、今にも転倒しそうだし、その上、追い越そうとするとなぜか道の真ん中に寄って来る。
“お願いだから歩道に入って!”
「誰だよ、自転車は車道を走れなんて言ったヤツ」と彼女は毒づいた。
苛立ちを押さえ、なんとか老人を追い越すと、今度は・・・。
8時26分
今度はオバちゃん、犬を散歩させているオバちゃん。伸縮するリードを伸ばしたままだ。
犬は道の真ん中を悠然と歩いている。
「巻き取って!巻き取って!」
クラクションを鳴らし、やっとの思いでクリアした時には、残り時間が3分を切っていた。
それでも保育園までは、わずか500メートルだ。
“なんとか間に合う”と彼女が安堵したその時。
柿本 久美子 がもっとも恐れていた事態が、フロントガラスの前に現実のものとなって現れた。
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