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「喧嘩は得意分野だろ?お前が来いよ」
「……厄介なオタクだ」
この場で鉄也の味方はいない。
みな響を恐れ、崇めている。
喧嘩も強く、頭もよく、顔もいい。
彼とお近づきになりたい人間は大勢いた。
男なら腰を低くして彼のそばに立ちたい。
女なら恋人になりたい。
とにかく響に近づけるというのは、この高校で学ぶ人間にとって一種のステータスになり得るのだ。
一方で鉄也と友達になっても、鼻つまみ者扱いされるだけ。
どちらが支持されるかは瞭然である。
「別に俺はお前と争いたいわけじゃない……」
「仲良くなりたいのか?歓迎するぜ」
「いや……その……ただ問題を起こすなと言ってるだけだ」
「不良とは思えない発言だな」
からかうように鉄也が言うと、響は苦い顔をした。
ほかの者も調子の出ていない響に困惑している。
気に食わない野郎は上級生だろうと教師だろうと噛みついてきた過去の響を頭に思い浮かべたからだ。
その空気を察知した響は、ぎこちなく鉄也の胸を片手で押した。
「びびってるわけじゃねぇぞ、お前のためを思って言ってるんだ」
「頭が悪いもんでな、なんで俺のためになるのかわからねぇ」
「大勢でお前を袋叩きにしても面白くないって言ってんだ」
「じゃあお前1人で俺をぶちのめせばいいだろうが、それともそんな勇気はないか?」
唇を嫌らしく歪ませて、鉄也は言った。
まわりの者も顔を見合わせて、ひそひそと小声で話し始める。
戦いの前兆を感じ取ったからだ。
普段なら有無も言わさず殴りかかる響だったが、その拳は緩めている。
彼は鉄也を殴りたくなどなかったのだ。
「本気で言ってんのか?勝てると思ってるのか?」
「勝ち負けじゃねぇんだ、人間戦うことやめたら終わりだろうが」
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