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「……今謝れば許してやる」
「謝るって何を?お前もミラージュちゃんの髪は短いほうが好きなのか?それは悪いこと言ったな、俺も考えが足りなかったよ……今度からはショート派の意見も尊重するぜ」
「……ふぅ」
響は小さく息を吐き、拳を固めた。
そして本気ではない、手加減した殴打を繰り出した。
拳は鉄也の腹にぶつかる。
しかし力の伝わっていないパンチが通用するわけなく、鉄也は鼻がくっつきそうになる距離まで顔を近づけた。
生暖かい吐息がかかり、響は初めて表情を崩す。
「なんだこりゃ……」
「いや……」
「き、君たち何やってるの?」
教室の扉を開けて入室してきた女教師が狼狽えるように問うた。
水を差された戦いは、ここで終わり、生徒たちは各々の教室や席に戻る。
物騒な問題が起こっていたことは明白だが、響が教師を睨みつけると、彼女は俯いて黙った。
不自然で、それでいて微妙な表情をして響は鉄也を一瞥する。
そして何事もないように席に戻った。
鉄也は不満げに眉間に皺をよせて、どっかりと自分の席に座る。
女教師はおどおどと授業の号令をして、いつも通り勉学は始まる。
「で、ではまず英単語の小テストをします……プリントを配るので後ろに回してください」
やや呂律がまわっていない教師はプリントを配っていく。
配られたテストを見て、鉄也は背もたれに深く背中をつけた。
どうせ答えなど分からないし、解く気分でもないからである。
オタクのくせに好戦的な鉄也はじっと響の背中を見つめた。
「……クソ」
響はプリントの上で適当にペンを走らせる。
彼もまた英語のテストを解く気分ではない。
心臓が激しく動き、顔の色が赤くなる。
くしゃくしゃと茶色の髪を掻き、深呼吸する。
精神が正常ではいられない。
野暮ったく下品な男に対する恋心……
井上響は中村鉄也に恋をしていた。
これは誰にも漏らせぬ1つ目の秘め事……
そしてもう1つは……
響はそっと振り向いてみた。
愛しの男がこちらを睨んでいる。
その敵意さえ、響は肯定的に受け取ってしまう。
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