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人気のない公園だ、夜は暗くなり、人の声は聞こえない。
日課と言ってもいいほどの行為、自分を開放できる行為。
鮮やかな赤のワンピース、それに合わせた色のハイヒール。
スレンダーな体つきに、悩まし気な目元……
真っ黒な長髪を淑やかに揺らしながら、その女は歩いていた。
自分の本性に従い、誰にも文句を言われないこの夜を自分のものにする。
気分は高揚し、足元は弾む。
唇は喜びで微笑み続け、化粧で彩られた肌は怪しく光った。
「涼しい……」
女は独り言ち、月を見上げる。
髪をかきあげて、春の夜という神秘を体中で享受した。
尿意を催した女は公園の女子トイレに入る。
個室に入り、便座に座る。
ワンピースを捲り上げパンツを下げ、男性器を露わにしてチョロチョロと小便を排出した。
「すっきり……」
恍惚の笑みを浮かべた女はトイレを出て、洗面台の前に立った。
手を洗い、自分の美しい顔を鏡で眺める。
その姿にうっとりとした。
彼女は別にナルシストではない、ただ本当の自分をこの目で見られて嬉しいのだ。
「あ……ずれてる」
女はかつらがずれていることを確認し、自然になるよう調節する。
思わずため息をつき、届かぬ理想に想いを馳せる。
「本当の私……受け入れられることなんてないんだろうな」
井上響という女は、悲し気に呟いた。
彼は生まれたときから誰よりも女性らしかった。
だがその事実をあけっぴろげに公開することなどできない。
彼女は男なのだから……
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