lady boy

6/35
前へ
/35ページ
次へ
人気のない公園だ、夜は暗くなり、人の声は聞こえない。 日課と言ってもいいほどの行為、自分を開放できる行為。 鮮やかな赤のワンピース、それに合わせた色のハイヒール。 スレンダーな体つきに、悩まし気な目元…… 真っ黒な長髪を淑やかに揺らしながら、その女は歩いていた。 自分の本性に従い、誰にも文句を言われないこの夜を自分のものにする。 気分は高揚し、足元は弾む。 唇は喜びで微笑み続け、化粧で彩られた肌は怪しく光った。 「涼しい……」 女は独り言ち、月を見上げる。 髪をかきあげて、春の夜という神秘を体中で享受した。 尿意を催した女は公園の女子トイレに入る。 個室に入り、便座に座る。 ワンピースを捲り上げパンツを下げ、男性器を露わにしてチョロチョロと小便を排出した。 「すっきり……」 恍惚の笑みを浮かべた女はトイレを出て、洗面台の前に立った。 手を洗い、自分の美しい顔を鏡で眺める。 その姿にうっとりとした。 彼女は別にナルシストではない、ただ本当の自分をこの目で見られて嬉しいのだ。 「あ……ずれてる」 女はかつらがずれていることを確認し、自然になるよう調節する。 思わずため息をつき、届かぬ理想に想いを馳せる。 「本当の私……受け入れられることなんてないんだろうな」 井上響という女は、悲し気に呟いた。 彼は生まれたときから誰よりも女性らしかった。 だがその事実をあけっぴろげに公開することなどできない。 彼女は男なのだから……
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加