培養臓器ファーム

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「期待しているよ。日本国民のために、存分に力を奮ってくれ」 「はい。ありがとうございます。日本が臓器移植先進国になれるよう、私自身がその礎になるよう、不退転の決意で臨みます」  今日、俺はついに室長になった。しかも、今最も期待をされている研究を推進する企画室の室長だ。この事業を成功に導いたら、いずれは局長の座も見えてくるかもしれない。夢であった高級官僚の席も見えてくる。  身体を壊さないようにタバコは吸わず、酒は最低限の付き合いのみとした。病気でもしたら元も子もないので、定期的な運動と栄養管理も徹底してきた。  上司に気に入られるためにゴマを擦り、うまく立ち回り、娘との縁談にまで持ち込んだ。愛のない家庭は苦痛でしかないが、これも出世のためには致し方ない。  足りない愛情は、接待でよく利用していた銀座のスナックの女の子に埋めてもらっている。月に数回、ホテルで逢瀬を重ねているが、その愛情も金で買ったもの。そんなかりそめの愛情でも俺には十分だった。  それもこれも、官僚として出世したかった。財務省や経産省に入省した大学の同期の奴らに負けたくないんだ。  そして、やっとそれらが実を結びかけている。絶対に、何があってもこの事業は成功させてやる。
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