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そして、やっと移植可能な大きさまで成長した臓器ができた、という報告を受けて今日の視察になったのだ。俺が今いる培養臓器ファームの隣には、榊原先生が院長を務める病院が隣接されており、近日中にその病院で移植手術が行われる予定だ。
エレベーターに乗り、4階に上がる。扉が開いて、廊下を進んだ先にある【肝臓】と書かれたプレートの掛かる扉の中に、榊原先生の後に続いて入った。
「前田さん、これなんですよ」
榊原先生が、分厚そうなガラスで仕切られたブースを指差している。近づいて、ガラス越しに中を覗き込んで驚いた。
「いや、何というか、これはすごいですね」
「でしょう。変にウェブでの打ち合わせに画像を流して、他の海外の研究者に見られでもしたら、途端に技術を盗もうとされてしまうので、今日はお越し頂いたんですよ」
「確かに……」
この技術は計り知れない価値がある。移植を待っている多くの患者に、そして俺の更なる昇進に繋がるんだ。
体液に似せた培養液の詰まったカプセルの中で揺れているのは、まさに肝臓そのものであった。
擬似血管を組織内に通して、それぞれの血液型タイプの血液を流すことで、栄養や酸素の供給、老廃物の除去、細胞内血管の成長を促している。
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