培養臓器ファーム

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 そう言って、榊原先生が指し示したところには、赤黒い土のようなものが盛られたプランターが置かれている。その上には、腐ってしまったのか、熟れた柿が道路に落ちて潰れたような物体がある。 「あの、榊原先生、これは?」 「人間の皮膚や筋肉、脂肪、血液、体液などを模した土壌です。しかし、うまくいきませんでした。全ての培養臓器が腐ってしまいました」  なんだよ、それじゃあ水耕栽培の方が良かったじゃないか。土壌栽培に成功したってことでの視察じゃなかったのか。それなら、一刻も早く第三案に移行しろよ。 「ただ、原因は分かっています。そして、その解決方法も」 「解決方法も分かっているのですか。それなら、すぐに対応を始めましょう。私にお手伝いできることがあれば言ってください」 「同意してくれてありがとうございます。こう失敗が続いた中で、前田さんのように前向きにこの研究に向き合ってくれる方が、私の研究室の担当者で良かった」 「とんでもないです。私は、榊原先生の取り組んでおられる培養臓器が日本を、いや世界を救うと考えています。世界の臓器移植の礎となる研究に携われるのは、私にとってとても名誉なことですよ」  その先に、高級官僚への道があるんだから、何としてでもこの研究は成功させたい。
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