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窓からの春風で下絵が描かれたトレッシングペーパーが僕の横にヒラヒラと落ちて来た。
その絵と僕を拾おうとしている手は小刻みに震えている。そして荒い息づかいをしたまま僕たちを握りしめ、みなみちゃんは倒れた。
物音に気付いたみなみちゃんの旦那様、洋ちゃんが部屋に入って来て慌てている。
「みなみ!みなみ!」
少しすると薄いブルーの服を着た男の人達が入って来てみなみちゃんを連れて行くと言う。
外を観ると赤いライトがグルグルと回っていた。
僕達はそれからずっとみなみちゃんの帰りを待っている。丸筆ちゃん達も僕の仲間の平筆君達も、あの柔らかなみなみちゃんの優しい手に握られるのをずっと待っている。
それから長い間みなみちゃんは帰って来ていない。
使われない僕達の毛先は水分が抜けパサパサになり。出番を待っているアクリル絵の具360色は容器の中でアクリルと色素が分離し始めている。早く交ぜてあげないと沈殿しきって固まって使い物にならなくなってしまう。
部屋に近づく足音が聞こえた。
丸筆ちゃん達がみなみちゃんだと喜んでいる。でも僕はわかった。洋ちゃんの足音だ。
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