公爵令嬢は、偽聖女の烙印を押されて婚約を破棄される

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公爵令嬢は、偽聖女の烙印を押されて婚約を破棄される

「アヤ・クレメンティ公爵令嬢、聖女の力を失っているにもかかわらず、それを騙りつづけているなどとは言語道断だ」  舞踏会の真っ最中である。唐突に叫びだしたのは、今夜の主役のアルド・パッティ。このプレスティ国の王太子であり、アヤの婚約者である。 (やっとね。やっとはじまるのね。待ちくたびれてしまったわ)  断罪劇が始まった瞬間、思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。 「申し開きがあるなら、きいてやろう」  だまっていると、彼が高飛車に言ってきた。  彼の横には、腹違いの姉のミーナがニヤニヤ笑っている。その深紅のドレスは、血を連想させる。 「何が可笑しいのだ?」  彼のこれみよがしの断罪を心待ちにしていた。だって、実につまらない舞踏会なんだもの。  だから、ついうれしくなってしまった。それが、ついつい表情に出てしまったらしい。 「申し訳ありません」  一応、しおらしく謝罪しておいた。 (はあ?当たり前じゃない。ここから一刻も早く出て行きたいのよ。あなたたちのくだらない茶番に付き合わされるこっちの身にもなってよね)    心の中で、そんなふうに思いながら。 「それで?申し開き、でしたでしょうか?」  頬がついつい緩んでしまう。  本物のアヤからは、淑女のフリはこのあたりまででいいと言われている。その後は、あなた流のやり方でいいわよ、とも。 「そうだ。きみは、重罪を犯している。いますぐ謝罪をして悔い改めるなら、この王都に置いてやってもいい。どこかの修道院で余生をすごせば……」 「必要ないわ、おバカさん」  戯言の途中でさえぎってしまった。  バカバカしくって、もう一秒たりともにやけた美形を見ていたくない。甲高い声をききたくない。さらには、見当違いの世迷言を囀らせたくない。 「なんだと?」 「あら?どこかの女狐の虚言はきこえても、わたしの言葉は理解出来ないようね、おバカさん?わたしから謝罪や懇願の言葉をききたかったんでしょうけど、おあいにく様。どうせわたしが何を言っても、あなたはわたしを婚約破棄の上追放するって決めているんですもの。言うだけ時間のムダでしょう?まっ、どうせわたしも何か言うつもりはないけど」  にんまりと笑みを浮かべてみせた。  美しくて清楚で可憐な姿のアヤだから、この笑みはたいそう異様な感じに見えるでしょうね。 「言いたいことはそれだけかしら?それでしたら、わたしはもう行ってもいいわね」  義姉と()婚約者は、口をぽかんと開けたままかたまっている。その二人に笑いかけると、背を向けた。それから、何事かと注目している貴族たちに、ドレスの裾を持ち上げて挨拶をする。 「わたくしことアヤ・クレメンティ公爵令嬢は、たったいま元婚約者の王太子殿下より偽聖女認定されました。それから、婚約破棄もされました。というわけで、プレスティ王国から永遠に追放されたわけです。今夜皆様がご覧になったことは、尾ひれ腹びれをつけて広めて下さい。皆様で話題にして、笑っていただければさいわいです。皆様に幸多からんことを。今後、この国が平和で栄えますよう、心よりお祈り申し上げておりますわ」  それから、顔だけうしろに向けて二人に言った。 「この国の唯一の聖女様、がんばって下さいね。それから、元婚約者さん、あたらしい婚約者とおしあわせに」  そして、颯爽とその場をあとにした。
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