小谷家の終了

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「一身上の都合により、ママを辞めさせていただきます」  ある日、ママが唐突に宣言した。  え?どういうこと?  僕と妹は固まってしまった。 「私ね、ここのところずっと考えていたんだけど、ううん、あなたたちのママになってからずっと考えていたのよ」  僕はパパとママが離婚するのだと思った。  パパはママの言葉が耳に入らなかったかのように、顔を隠して新聞を読んでいる。 「ママどこかに行っちゃうの?」  妹が泣きながらママにすがりつく。 「いいえ、そうじゃないの。ママはこれからもこの家にいるわよ。ただ、あなたたちのママでなくなるってだけ。だから、翔平も千夏も、もうママのことはママって呼ばないで、綾子さんって呼ぶのよ」  何を言っているのか分からず、戸惑う僕。  今度はパパが宣言した。 「パパも、パパを辞めるよ。今後はパパのことは雄二さんと呼んでくれ」  パパまで何を言ってるの?  パパとママがパパとママを辞めちゃうってことは、僕たち兄妹はどうなっちゃうの?  僕の脳裏に、路頭に迷って物乞いをするマッチ売りの兄妹の姿が浮かんだ。  たった一枚の壁を隔てた向こうには、暖かい光が見えるのに、僕らは寒風が吹きすさぶ中、売れ残りのマッチを擦って暖を取らねばならないのだ。  そのうちマッチの火の中にご馳走が見えるようになったら、もうアウトだ。  兄妹二人でこれからどうやって生きていこうかと、暗い不安でいっぱいになっていたとき、妹が宣言した。 「じゃあ、私も妹を辞める!」  え?さっきまで泣いていたのは何だったんだ? 「だって、妹だと、いっつもお兄ちゃんの方が先なんだもん。新しいゲームも漫画も、お兄ちゃんが終わるまで待ってなきゃいけないし、アニメが見たいのに、お兄ちゃんがサッカー見ちゃうし」  と言って、妹は僕が買ってきたばかりの漫画雑誌を持って自分の部屋に行ってしまった。 「あ、こら!まだお兄ちゃんが読んでないんだぞ」 「翔平も、もうお兄ちゃんじゃないのよ。だから千夏が読み終わるまで待ってなさい」  助けを求めるようにパパを見ると、パパはママに同意するかのように、ウンウンと頷いた。 「ぼ、僕はどうなっちゃうの?パパとママの子供でなくなったら、どうなるの?」 「あなたは翔平よ。小谷翔平のまま。どうにもならないわ。ただ、パパとママの子供じゃないし、千夏のお兄ちゃんでもなくなるのよ」 「僕、もうこの家に住めないの?」 「この家の住人は小谷雄二に小谷綾子に小谷翔平に小谷千夏よ。今まで通りこの家に住めるわ。でも、もう私たちは家族じゃない」 「うん、そうだ。もう俺たちは家族じゃないぞ。家族は解散だな」 「あ〜、せいせいしたわ。もうママをやるのはウンザリ。これからは家族の為にご飯を作らなくてもいいって、楽ね」 「俺、新しくできたラーメン屋が気になってたんだよな。今からゴルフの打ちっ放しに行って、ついでに晩飯食べてこようっと」  なんて言って、パパは一人で出かけてしまった。  これはきっと、何かの遊びに違いない。あんなこと言ってたけど、ご飯の時間になったらちゃんとママは作ってくれるはずだ。  僕は自分の部屋に入って、ゲームをして過ごすことにした。  そしたらゲームに夢中になって、つい夕飯の時間を過ぎてしまった。  あ、夕飯の時間だ。  もう、なんでママは知らせてくれないんだろう。  プリプリしながらキッチンに行くと、ご飯は用意されてなかった。 「ママー!ご飯まだ?もうとっくに夕飯の時間は過ぎちゃってるよ」  大声で呼んでも、ママは出てこない。おかしいなと思ったら、ママはリビングでビールを飲みながらテレビを見ていた。 「ねえ、ママ、ご飯」 「ママじゃないでしょ。綾子さんって言いなさい」 「あ、綾子さん、ご飯食べないの?」  なんでママのこと綾子さんって呼ばなきゃいけないんだろう。 「食べたわよ、もう。私はあなたのママじゃないんだから、あなたの分は作らなくていいの。食べたければ自分で作って食べなさい」  そんなぁ・・・。自分の分だけ作って食べちゃうなんて、酷いよ。  僕はガッカリしてキッチンに戻った。どうしよう。自分で作れって言ったって、どうしていいかわからないよ。  僕が途方に暮れていると、妹が入ってきた。そうだ。千夏だって晩ご飯が食べられないぞ。  どうせ漫画に夢中になって、ご飯の時間が過ぎたのに気付かなかったんだろうな。  ところが千夏は、戸棚からコーンフレークの箱を取り出すと、シャーっとボールに開けて、ミルクをかけて食べ始めた。 「おい、千夏。ご飯それでいいのかよ」 「翔平は自分の好きなもの食べればいいじゃない。私は私の好きなもの食べるんだもん」  千夏は何食わぬ顔でコーンフレークを食べ終わると、とっとと自分の部屋に帰ってしまった。  なんだよ、もう。勝手だなあ。  そうは言っても、僕も何か食べなくてはいけない。  仕方なく、戸棚から食パンを出して、トーストして食べることにした。  家族って協力するもんじゃないのかな。このままだとバラバラになっちゃうぞ。  その後でお風呂に入るときも大変だった。綾子さんはシャワーだけで済ませたみたいで、湯船にお湯が入っていない。  うちのお風呂はスイッチでお湯を張るタイプだけど、どこを押していいかわからない。  蛇口からお湯をジャバジャバ出したけど、熱過ぎたりぬる過ぎたりして調節が難しかった。  千夏はお風呂に入らなくても怒られないからと、そのまま寝てしまった。  夜遅くにパパが、いや、雄二さんがお酒を飲んで帰ってきて、お湯を張っていたけど、それまで待てば良かったなぁ。今更もう一回入る気にもなれないや。  そうしてみんなが家族でなくなった生活がスタートしたのだけれど、意外にもそれほど不自由ではなかった。  綾子さんのご飯は食べられなくなったけど、戸棚にはいつもパンやコーンフレークがあったし、時々はカップラーメンもあった。  僕と千夏には学校の給食があるし、朝などはかえってコーンフレークの方がいいくらいだ。近所にはコンビニだってある。  でも、前々から計画していた、家族で遊園地に行くというのは中止になった。  雄二さんがミニバンを売って、大型バイクを買ってしまったのだ。 「昔から乗りたかったんだよ。今まで家族がいたから諦めていたけど、これからは心置きなく楽しめるぞ」  なんだよ。まるで僕たちが邪魔だったみたいな言い方じゃないか。  千夏は家族レジャーが中止になると分かると、さっさと友達の家に遊びに行ってしまった。  僕は不貞腐れてゲームをやることにした。  そのうちに、いつまでもゲームをしていても、誰にも何も言われないことに気付いた。  そうか。家族じゃないから、怒られることもないんだ。いつもだったら、ママが真っ赤な顔で入ってきて、もう、いつまでゲームやってるの、明日も学校あるんだから、早く寝なさい!なんて言うんだけど、そういうのもなくなっちゃったわけか。  夜更かししたって、夜中にお菓子を食べたって、お咎めなしだ。  学校でさえも、行かなくてもいいのかな、とすら思い始めた。  でも、意外な落とし穴があった。  お小遣いがなくなったのだ。  いつも発売日に買っている漫画雑誌を買おうとして、財布の中身を見たとき、ほとんど入っていないのに気付いた。  綾子さんにお小遣いが欲しいって言っても、「もうママじゃないんだから、あなたにお小遣いをあげる必要はないの」と言われてしまった。  雄二さんに言っても、「俺のお金は俺が働いて稼いできたものなんだから、お前にあげるものじゃない」なんて言われる始末。  なんてこったい。これじゃどうやって生きていけばいいんだ?  今は食べ物もあるけど、もしも調理が必要なものしか置かなくなっちゃったら、どうするんだろう?  不都合を感じ始めたのは、僕だけではなかった。  雄二さんは、家族が解散してから毎日外食の暮らしを続けていたのだが、流石に綾子さんの手料理が恋しくなったらしい。  洗濯だって自分の分は自分でしなくてはいけないし、一日に何度も洗濯機を回すとその分水道代もかかる。  それは雄二さんの口座から引き落としされているのだ。  ある日の晩、綾子さんが家族全員の食事を作ってくれた。僕も千夏も、久しぶりに給食以外でまともなご飯を食べることができたし、ここのところいつも遅い雄二さんも早めに帰宅した。 「なんだ、アレもう止めたんだ。やっぱり僕たち家族だね。ママはママに、パパはパパに戻ってくれるんだね」  ようやく狂ったゲームから解放されるんだ。 「そうじゃないのよ。私はお仕事してるだけ」 「ママのお仕事は家事をすることでしょ?」 「雄二さんに雇われたのよ。今まで貯金を取り崩して生活してきたけど、私だって収入が必要だし」 「でも、僕たちの分までご飯作ってくれたんでしょ?」 「それはそういう契約なのよ。なるべく食費や光熱費を節約するためにね。私と雄二さんの二人分だけ作るより、その方がお金がかからないからそうしているだけよ」  なんだそりゃ。家族なのに契約って、おかしくない?契約してなかったら、愛してくれないの? 「みんな食事もお風呂も8時までに済ませるように」  と雄二さんが言った。 「利用時間が決まっているんだ」  家の中にママはいないけど、家政婦さんがいるみたいなものか。  でも、綾子さんが仕事をする時間は決まっているようで、絶対に勤務時間以外には働かなかった。  だから朝はコーンフレークか、食べないときもあったし、洗濯物は決められた時間までに出さないと、翌日まで持ち越された。  どうも腑に落ちないが、一応、食事やお風呂や洗濯は、ほぼ今まで通りに戻った。  でも、僕にはまだ問題が残っていた。  綾子さんと同じく、経済的な問題に直面していたのだ。  このままだと漫画もゲームも買えないんだ。  そこで僕も雄二さんから仕事をもらおうと思ったのだけど、お前を雇う余裕はないと言われてしまった。  だったら見てろよと思って、小谷翔平ショーを開催したのだけれど、誰も見に来る人がいなかった。  クソー。将来お笑い芸人になる夢は諦めた方がいいかもしれない。 「あ、千夏!お前、まだお小遣い残っていたのか」  千夏は僕が欲しかった最新のゲームをやっていた。 「あたしは綾子さんの下請けをやってるもん。翔平と違って遊んでばかりじゃないんだから」  こいつ、いつの間にそんな知恵を身に付けていたのだろう。クソー!いつもだったら、僕の方が先にやるのに。 「ねえ、綾子さん。僕も綾子さんの仕事のお手伝いするよ。だから僕にもお小遣いちょうだい」 「千夏だけで十分だわ。これ以上従業員を増やしたら、私のお給料がなくなっちゃうもの。ただでさえ、雄二さんはお給料の払いが渋いのよ」  ああん、もう!  やりたいやりたいやりたいやりたい!  僕も新しいゲームやりたいよぉ〜!  しばらく悶々とした日々を送っていると、千夏がそのゲームをクリアした。 「ねえ、翔平。あたし、このゲームはもうクリアしちゃったから、翔平の持ってる他のゲームやりたいな」  え?本当か!? 「だったら、交換しようぜ。今、持ってるやつ、全部と取り替えっこしよう」  全部は言い過ぎかな。でも、最新のがやりたいよぉ〜。 「それより翔平はお金持ってないでしょ。あたしが翔平の持ってるゲーム、全部買ってあげる。もちろん中古価格だけど」  お!な、なんて優しい奴なんだ!やっぱり千夏は僕の妹だよ。  僕は全部千夏に売ってやった。ゲームは惜しいけど、それより先立つものが必要だ。  新しいゲームを買えるほどではないけど、これで欲しかった漫画が買えるぞ。 「それから、新しいゲームもやらせてあげるよ。10分100円で」  こ、この〜!足元見やがって。いつの間にそんな悪知恵を身に付けたんだ。  でも、ゲームの誘惑には勝てず、僕はせっかく手にしたお金も、あっという間に失ったのだった。  クソー。  僕の家族は一体どうしちゃったんだろう。  同じ屋根の下に暮らしている。  雄二さんは綾子さんにお金を渡し、綾子さんは四人分のご飯を作り、一通りの家事をする。  千夏はご飯の前でも自分で買ってきたおやつを食べ、部屋に閉じこもってゲームばかりしている。  みんな好き勝手なことばかりしている。  生きるのに不都合がないと言えば、言えないことはない。  でも、授業参観には誰も来なかった。  僕ももう五年生だし、別に来て欲しくないっちゃないけど。  テストで悪い点を取っても怒られることもない。  それはありがたいのかもしれないけど。  でも、でも、でも。 「ねえ、綾子さん。綾子さんは、これでいいの!?みんなが家族でなくなって、同じ家に住んでるのに他人で、これでいいの!?今の生活に不満はないの?」 「不満ねえ。お仕事するのも、嫌なときがあるわ。だって今はパートタイマーでしょ。時給は変わらないし、雇われの身だし。社長さんみたいに、自分で命令したり、人を使ったりしてみたいわね」 「雄二さん。雄二さんは、今の生活で幸せなの!?」 「そりゃあ、幸せってことはないよ。だって少ない給料なのに従業員まで雇って。人に給料払うのも、もうウンザリだな。毎日長い時間、会社で働いて、お金を取られて感謝もされないなんて」 「千夏!千夏は今のままで満足なのか!?」 「あたしにだって苦労はあるわよ。なんで小学二年生でアルバイトしなくちゃいけないのよ。そんな子、クラスであたしだけだわよ。ゲームだって漫画だって、今までは翔平が買ってきてくれたのに」  なんだよ。みんな幸せじゃないじゃないか。  僕ももうウンザリだ。みんなみんな狂ってる! 「だったら家族に戻ろうよ!」 「それは嫌よ。ママになったら、誰も私を私として見てくれないもの」 「俺だってそうだ。パパだからって、自分のやりたいことを我慢しないといけないなんて」 「何で三年遅く生まれただけで妹にならなきゃいけないのよ」 「私はママじゃないわ」 「俺はパパじゃないぞ」 「あたしだって、妹じゃないもん」  じゃあ、じゃあ、じゃあ。一体この人たちは何なんだよ!ママでもない、パパでもない、妹でもない。一体この人たちは誰なんだ! 「私は私」 「俺は俺」 「あたしだってあたしだわよ」 「逆に、あなたは誰よ」 「そうだ。お前は誰だ」 「あんた、誰!?」  僕は、僕は、僕は!  僕は、小谷翔平。でも、誰の子供でもないし、誰のお兄ちゃんでもない。  じゃあ一体、僕は誰なんだ?  そのとき、僕にあるアイデアが閃いた。 「綾子さん!」  僕はママの目をまっすぐに見た。僕のあまりの迫力にママもたじろぐ。 「な、何よ」 「もう、時給で働くのはウンザリなんだよね。社長さんみたいな働き方がしたいんだよね」 「そ、そうよ」  次は、パパの方を向いた。 「雄二さん!」 「な、なんだ!?」  パパも何事かとびっくりだ。 「もう、お給料を払うのはウンザリなんだよね。感謝されないのはウンザリなんだよね!?」 「そ、そうだが」  そして妹だ。 「千夏!」 「何よ」 「もうアルバイトしなくていいぞ!」 「え?ほんと?ラッキー。でも、どうやったらそんなことができるのよ」  みんな一様に訝しげな目で僕を見た。どうしてそんなことができるのか。答えはある。でも、みんなが思っているのとは違う。 「そうよそうよ。どうしてそんなことが可能なのよ」 「そうだぞ。まさか俺たちに家族になれって言うんじゃないだろうな」 「あたしも家族はもうたくさん」 「僕だって、僕だって、こんな家族、もう十分だ!」  すごく大きな声を出しちゃって、みんなビクッとして固まった。 「家族にはならなくていい。でも、みんなの希望は、僕が叶えてあげる」  しーんと静まり返る、元家族。長い沈黙の後、やっと綾子さんが口を開いた。 「ど、どうやってするのよ」  雄二さんに千夏も金縛りが解ける。 「そうだぞ。どうやってするんだ」 「そうよ。いい加減なこと言わないで」  ママの役を、降りたママ。  パパの役を、降りたパパ。  妹の役を、降りた妹。 「だって僕、新しい仕事を始めたんだもん」 「翔平、もう起きなさい。学校に遅れるわよ」  ふわぁ。もう朝か。なんか、変な夢を見ていたような気がするな。  長い、長い、とても奇妙な夢。 「千夏は?」 「あなたがお兄ちゃんなんだから、あなたが起こしてあげなさい」 「は〜い」  僕は妹の千夏を起こしに行く。妹はかわいい寝顔で、スヤスヤとまだ夢の中だ。 「ほら、千夏。起きるぞ。早く起きてこないと、お兄ちゃん先に学校に行っちゃうからな」  こう言うと、いつも妹はパッと起きる。 「え〜、やだぁ。お兄ちゃん待っててよぉ」  小学二年生の妹は、まだお兄ちゃんに甘えたい盛りなのだ。  二人揃って食卓に行く。今朝のメニューはトーストに目玉焼き、海藻サラダ。ママは朝でも手を抜かない。 「いつもこんな感じなの?肩が凝っちゃう」 「もう!余分なこと言わないでよ。時々はコーンフレークの日もあるからさ」  そんな僕等を、パパは新聞紙を広げながら、何か言いたげにチラチラ見ている。 「たまにはラーメン食べに行きたいんだけど」 「ラーメンは土曜日!もう、パパもちゃんと仕事して」 「ねえ、パパ。今度の日曜日、遊園地連れてって」  妹が甘えた声を出す。でもそれじゃイマイチだよ。 「ほら、千夏。もっと甘えて甘えて!」 「う〜。ねぇ、パパぁ」 「しょうがないなあ。でも車がないぞ」 「レンタカーがあるじゃん!」  と、僕の台詞も入る。我ながら完璧だね。 「ついでにアウトレットにも行きたいわ」  よしよし、ママもだいぶ板についてきた。 「しょうがないなあ」  ここは一応、パパには渋々といった演技をしてもらう。 「やったぁ!」  いいぞ千夏。もっと子供らしく。ほら、パパに甘えろ。 「パパ、だあ〜い好き!」  よし、パパのデレデレ顔、最高! 「まあまあ、子供達もこんなに喜んで。あなたのお陰よ。パパ、いつもありがとう」  ちょっとベタだったかな?まあ、いいや。そのうち直していこう。 「さあ、あなた、今日もお仕事頑張ってね。翔平に千夏も、食べたら早く歯磨きして、遅れないように学校に行くのよ」 「「は〜い」」  ナイスタイミング!仲良し兄弟の演出バッチリだよ。 「ママが家を守ってくれるから、パパも安心して外に働きに行けるよ。財布も安心して預けられるし、ママはうちの社長さんだな」  いいぞパパ。その調子。 「パパ、お小遣い欲しい」  千夏の甘えっぷりは演技じゃないな。 「おっと。それはママに頼みなさい。じゃ、行ってきます」 「行ってらっしゃい。早く帰ってきてね。たまには遅い日があった方が有り難いけど」 「もう!ママ。ちゃんと台本通りに演技して!」  こうして僕は新しい仕事を始めた。時々台詞を覚えない役者さんがいるけど、ちゃんと監督の指示通りにやってくれなきゃあ。  そうそう。キャスト紹介しておくね。 『小谷家の幸せな日常』  ママ・・・小谷綾子  パパ・・・小谷雄二  兄・・・・小谷翔平  妹・・・・小谷千夏  監督・脚本・演出・・・小谷翔平  以上でお送りしました。
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