領主の娘と見習いの騎士

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「どうして!? まだ生きてるじゃない!」  カーライルは食ってかかる私から視線をそらすようにアドニスへと視線を向けた。 「右目はもうだめですし左のこめかみも傷が酷い。意識が戻るかどうかもわかりませんし、仮に戻ってもすぐ自力で動けるようにはならないでしょう。いざというとき足手まといになります」 「そんな……彼は私を守って傷ついたのよ」 「……だからこそです。こいつだって自分のせいでお嬢様を危険に晒すような真似は望みません」  苦し気にそう言った彼の表情が右腕の痛みに耐えているからだけではないことに気付く。  ふたりは幼いころからの知り合いで騎士見習いとしても同期に当たる。アドニスを置いていくのは私なんかよりカーライルのほうがずっとつらいに決まっている。  私はさっきの今でまたしても同じ過ちを繰り返してしまったのか……。 「ごめんなさい。貴方の気持ちも考えずに」  カーライルはほっとしたような悲しいような複雑な表情を見せたが、私はそこで終わらずさらに言葉を重ねる。 「でも、それでもアドニスをここに置いてはいけないわ。お願いよカーライル」 「お嬢様……」  彼だって本当は連れて行きたいはずなのだ。でもそれが良かれと思って決めたはず。私がいくら言っても一方的なわがままでは通らないだろう。 「……いざとなったら」  私にも悩んだうえで思いついた妥協点があった。 「いざとなったら、そのときには申し訳ないけれど置いていきましょう」  危ないと言われているのに連れていきたいと駄々を捏ね、本当に危なくなったらそこに捨てていくと口にする。なんて身勝手な要求だろう。  けれどもこれなら“いざとならない限り”アドニスを一緒に連れて行ける。  それがどこまでなのか、いつまでなのかはわからないけれど。 「せめて、それまでは……だめかしら」  カーライルは少しのあいだ目を伏せて考え込むと、視線をあげて頷いた。 「仕方ありませんね……承知致しました。ただし本当に危険がない限りですからね。なにかあれば迷わず置いていきます」 「わかってるわ。ありがとう」  私の言葉に彼は少し悪い微笑みで答えた。 「まあかまいませんよ。連れて行けばいざというときに囮なり盾なりには使えるでしょうから」 「さ、さすがにそれはやめてちょうだい」  私は引きつった笑みで返さざるをえなかった。
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