第一章 取材と怪談

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       2  坂を上がると森が開ける。木立に遮られていたため薄暗かった道も少し明るくなる。晴れていたらきっと明暗の差で眩しく目を細めていただろう。  目の前に見えるのは瓦屋根のついた日本風の立派な門だった。柱には表札が掲げられており、仰々しい文字で水無月と書かれてあった。人によってはこれだけで委縮してしまいそうである。  門から左右へと塀が伸びていた。しかし塀の終わりを見ることが出来ず、広大な敷地であることを想像させる。  門は見た目とは裏腹に、来るものを拒むわけではなく解放されていた。  開けてあるということは入っていいという事だろう。深見と霧島はためらいながらも敷地内へと足を進めた。  敷地に入るとすぐ左手に立派な白壁の蔵があった。漆喰の白が曇り空の下でも眩しく輝いていた。壁には黒い雨だれ跡が幾筋見えるが、古いはずなのにそうは見えないのは手入れが行き届いている証拠だろう。  左手奥には平屋の日本家屋が見える。昔話に出てきそうなたたずまいに若い二人は目を丸くする。今どきこんな家があるとは。今ではめったに見ない縁側があり、昭和の風景が思わず浮かぶ。しかしそれも深見たちにはテレビで見た光景に過ぎないのだが。  そして日本家屋の右横、門から見て右手奥には対照的な豪奢な洋館が建っていた。赤茶色のレンガ壁に日本では見ない窓の形、そこだけが異国情緒あふれ、まるでセットではないかと思ってしまう。見たところ洋館は古くないので、日本家屋があったのを取り壊し新しく建てたのではないだろうか。  ちぐはぐな水無月家の敷地内を見て、失礼ながら二人の顔には苦笑いが浮かぶ。 「日本家屋と洋館か。ミスマッチだな。まるで撮影所みたいだな」 「現当主は日本家屋より洋館の方が好きだったんだろ」 「だからといって……。まあ、金はあるだろうからなあ。山を切り崩した場所だが思ったよりも広い。蔵も立派だし、これを見ただけでどれほどの名家だったか分かるな。ついでに現在の資産も計り知れる。大きな家や蔵は維持費も馬鹿にならないだろう」
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