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「広いお屋敷ですね。御家族全員ここに?」と少々緊張気味の深見が尋ねた。
「いいえ。こちらに住むのは旦那様とお嬢様、住み込みの私だけです」
「三人でこの広さは贅沢ですね」
「大奥様、キヌ様は向こうの日本家屋に住んでおりまして。こちらに住むよう勧めましても頑として首を縦に振らないのです。あちらは昔からあって、キヌ様も幼少のころから住んでいらっしゃるので離れがたいのでしょう。あちらにはキヌ様のお世話と料理担当の家政婦が住んでおります」
ここで深見の腕を霧島が肘でつついた。顔を彼の耳元に近づけ控えめな音量で聞いてくる。
「水無月家の家族構成は?」
「当主の隆造、一人娘の綾子、隆造の母親のキヌ。水無月家はそれで全員だ。隆造の妻雪子は九年前に亡くなっている」
「それに使用人が二人で、ここに居るのは全部で五人か」
「俺がインタビューする係でお前はカメラ係だから、よろしく頼むぞ」そう言って深見はカメラを霧島に渡した「ああ、わかった」
こうしてコソコソと話していると槙が部屋の前で足を止めた。階段を上がって右手奥、突き当りの右側の部屋だった。彼がコンコンとノックをする。
「深見様がいらっしゃいました」
「ああ、通してくれ」
バリトンボイスが部屋の中から返ってきた。
槙が扉を開け二人は室内へと通される。
そこはいわゆる書斎のような部屋だった。部屋奥の壁にデスクと机、本棚が並んでいる。手前には小ぶりなソファとテーブルがあり、誰かを招いて話が出来るようになっていた。シックなデザインで統一されており、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
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