第一章 取材と怪談

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 水無月隆造氏のインタビューが始まった。現在の事業の話や今後の展望、地元についてどうお考えかなどを質問していく。その間霧島も真面目に仕事をこなしていた。 「水無月家はもともと旅籠をやっていて、それが現在のホテル事業に繋がっているようですね」 「歴史のある家で、自分の代で潰さないようにと必死にやって来ただけなんだけどね」 「そんな、ご謙遜を。今では地元有数の大企業となっているじゃないですか」 「運が良かったのかな。もしかしたら私の手腕もあったのかもしれないが。はははっ」 「今後の野望とかはありますか?」 「野望とはまた大げさだね。ただ新しいコンセプトのホテルを計画しているんだ。まだ計画段階だから、そこはよろしく」と隆造は茶目っ気たっぷりに唇に指をあてる。 「それは楽しみですね。若者向けとかでしょうか?」 「ははっ、内緒だよ。あとはもう、事業の安定と水無月家を潰さないようにということだけかな」 「お子さんは娘さんだけでしたね。今後はやはり娘さんの綾子さんが引き継ぐんでしょうか?」 「う~ん、それもいいが、今は婿取りを考えているんだよ。ちょうど今、娘の見合いをやっているんだ」 「そうなんですか?」 「見合いと言ってもそんな堅苦しいものじゃないんだよ。婿候補が二人、今、家に居てね。とりあえず数日間一緒に過ごしてもらって、綾子に良いか悪いか考えてもらおうと思ってるんだ」 「そうでしたか。そんなときにお邪魔してすみません」 「いやいや、親の私には関係ないからね。若い者同士で、というやつだよ」  はははっと笑う隆造。深見も同じように笑っておくが、胸の内では見合いとは何とも古風だなという感想を抱いていた。しかし歴史ある家では血筋を絶やさないということは絶対なんだろう。ましてや一人娘、そうなるのも分からなくはないが、娘の立場から考えると男の深見でさえも不憫な気がしてならない。プレッシャーと言うのか、一般家庭とはまた背負っているものが違うんだろう。
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