第一章 取材と怪談

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 しかしその一方で、記者としては興味がそそられているのは否めなかった。名家へ来る婿とはどんな人物なのか、そして綾子が誰を選ぶのか。取材対象としては面白そうだった。リアルタイム、現在進行形の現場に居合わせたのはラッキーと言える。  隆造へのインタビューがひと段落したころ、先ほどの青年槙が紅茶を持って部屋に入ってきた。それらを配膳し終えるとまた部屋を静かに出る。イメージ通りの使用人という感じでばりばり庶民の深見には珍しい光景だった。まるで空気のように気配を消しつつも、快適な空間を作り出す。ある意味職人技のように思えてならない。  深見は淹れてもらった紅茶を飲んだ。鼻を抜ける香り、口に残る甘味、普段飲んでいるティーパックの紅茶とは比べ物にならなかった。まさしく正真正銘の紅茶を飲んだ気分である。やはり名家、使っている茶葉も高級品である。  こうしてひとり深見が感動している横で霧島は優雅に紅茶をたしなんでいた。その堂々とした態度には、どっちが先輩だか分からない。実際に育ちは霧島の方が良いので仕方ないが、これでは新人記者というウソがばれそうである。  その霧島は優雅な手つきでティーカップを置くと、向かいに座る隆造に目を向ける。 「水無月さん、屋敷などの写真を撮っても構いませんか?」 「ええ、どうぞ」 「お屋敷もそうですが、蔵も立派ですね」
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