第一章 取材と怪談

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       3  深見と霧島の二人は来た道を戻っていく。階段前まで来ると目の前から見知らぬ男性が歩いてきた。 「うん? 見ない顔だな。綾子ちゃんの婿候補っていうわけでもないだろうし」  不思議そうな表情で二人を見つめる男性。歳の頃は三十代後半といったところか。無造作に整えられた髪は茶色に染められていて、服装もカジュアル。少し軽薄そうで、顔もへらへらと締まりないので余計にその印象を増長させていた。彼の言葉から水無月綾子の見合い相手だと推測される。  深見はビジネススマイルで目の前の男性に名刺を差し出した。 「新聞記者の深見です。後ろにいるのは同じく記者の霧島。今日は水無月隆造さんのインタビューで参ったんです」 「へぇ~そういう事ね。俺は豊田篤志って言うんだけど」  そう言うと豊田の視線は後ろの霧島に向かう。その興味深そうな視線に霧島の顔が渋いものへと変わっていく。この状況には深見の中で警告音が鳴り始める。目の前の豊田は霧島が最も苦手とする類の人間だった。昔から嫌いな人間には容赦がない、ここでトラブルを起こされればせっかくの取材が台無しになりかねない。しかも相手は水無月家の婿候補、是非とも話を伺いたい対象であった。  深見はすぐに行動を起こした。霧島がかみつく前に体をずらし豊田の視線を遮る。それに彼は一瞬不快な顔を示すが、笑顔でそれを相殺する。
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