第一章 取材と怪談

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「とよたあつし……豊田篤志さん……。ああ、もしかして、飲食店経営で成功している若手実業家のあの豊田さんですか?」 「そうそう、それ。新聞記者さんにも知ってもらえていて感激だな」 「地元じゃ有名ですよ。おしゃれなお店でリーズナブル、味も間違いなしで人気店。予約は取れないし、行列まで出来ている」 「ありがとう」 「その豊田さんが水無月綾子さんの婿候補ですか?」  少し意外な人選に深見が目を丸くしていると、豊田も同じような気持ちなのか、戸惑い混じりの声で答えた。 「宿泊業界とは畑違いだけど、俺もホテルとか興味あったからね。オシャレなゲストハウスとかやってみたいと思っていたからさ。あと、オーベルジュなんかも良いよね。でも確かに、声をかけられたときは驚いたよ。だけど同郷で成功者、水無月社長の方も会社に新しい風をとか、そういう意味もあったんじゃない?」 「なるほど。他の婿候補にはどんな方がいるんですか?」 「まるで取材のようだな」  苦笑いをする豊田氏に深見も笑い返す。 「記者ですので、職業病だと思ってください。私たちもまさかお見合いが行われているとは知らなかったもので」
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