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「それに、綾子ちゃんの態度からすると、結婚なんて考えてないんじゃないかな」
「親が決めたお見合いですからねえ」
「気持ちはわかるけどさあ、それはそれで俺たちが困っちまうよ」
そう言って豊田は肩をすくめる。しかし打算が見え隠れするお見合いで乗り気になれと言うのも無理な話である。しかも綾子には婿候補ほどのメリットがあるわけではない。むしろ見合いをやってくれただけでも感謝するべきなのだろうが、目の前の男に言っても届かないだろう。目の前のニンジンが大きすぎるのだ。
深見は豊田を見やる。世間一般的な親の立場を想像して考えると彼には少々問題を感じる。仕事の才能はあっても、家庭を守れるか大事に出来るかはまた別問題のはず。もう一人の候補はどうなんだろうか。彼よりはまともであってほしいと願う。
「綾子さんや高瀬さんは今どちらに?」
「一階のリビングだよ。あっ、タバコ忘れちまった。記者さんはもう帰るの?」
「大奥様のキヌさんに話を聞きに行く所だったんです。それが終わったらリビングの方にご挨拶に伺おうと思います」
「そうか。じゃあまたあとで」
「はい」
豊田は部屋に小走りで引き返していった。それを見届けたあと、深見と霧島はそのまま階段を降り一階に向かった。互いの顔には渋い顔が浮かぶ。理由はそれぞれ違うだろうが、大本では同じだろう。
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