第一章 取材と怪談

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 息の詰まる空気感の中、背筋をピンと伸ばした深見が自己紹介する。 「新聞記者の深見信一です」 「同じく記者の霧島照です」 「初めまして。水無月キヌです。ようこそ、いらっしゃいました。水無月家の歴史をお聞きになりたいそうで」 「はい。江戸時代から続く名家の歴史をお聞き出来たらと思いまして」  深見と霧島は顔を上げ、改めて目の前に座る老婆を見る。歳は七十代後半だろうか。小柄で年相応のしわを刻んだ顔と服から覗く細腕はお年寄りそのものだったが、眼光は鋭く、相手を十分に射貫く力強さがあった。歳を召したとはいえまだまだ元気であるのは間違いないだろう。話す言葉もしゃっきりしていて貫禄を感じさせる。 「話すほどの歴史ではありませんよ。先祖が旅籠を始めて、それを続けているだけですからねえ」 「ですがここまで続いていることが素晴らしいんです。続けるということは並大抵の努力で出来るものではありません」 「水無月家は旅籠から始まりましたが、そこからいろんな事業に手を伸ばしまして。旅人相手に薬を売り出したり、雑貨屋みたいなのもやりました。ですがそれが仇になったのです。広げ過ぎて危ないときもあったようですよ」 「それを救ったのが確か、キヌさんのお父様ではなかったでしょうか?」 「ええ、ええ、そうです。事業の縮小ですね。性に合わないものや採算の取れないものを全部止めてしまったんですよ」
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