第一章 取材と怪談

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「あくまで噂、怪談の類です。大きなお屋敷ですし、子供たちには不思議な家に映っているのかもしれません。お気に障ったのならすみません」 「いえいえ。古いおうちですし、子供はそういうお話が大好きでしょうから。それで具体的にはどんなのが話されているの?」 「そうですね。女性が次々に消えているとか、女の叫び声が聞こえるとか。あとは、二面女が出るとか」 「二面女……初めて聞きますねえ」 「頭の後ろにも顔がある、二つの顔を持つ妖怪のことです」 「へぇ~。もしかしたら私のことかもしれませんねぇ」 「えっ?」  深見の口から素っ頓狂な声が出る。その反応にキヌは笑う。 「冗談ですよ」 「で、ですよねぇ」 「ふふっ、そんな妖怪、我が家にはいませんよ。見たことありません」と心底楽しそうに笑うキヌに深見はホッとする。それに伴い空気も少し軽やかになったように感じられた。薄れた緊張感に深見の口がいささか滑らかになる。 「ははっ、やっぱりいませんよねぇ」 「もちろんですよ。居たらびっくりしますよ」 「そうだ、隆造さんに聞けなかったことがあるんですが」 「なんでしょう」 「彼の奥さま、雪子さんについてお聞きしたいのですが。とても美しい人だったと聞いています。九年前に亡くなったそうですが、さぞ良い奥さまだったんでしょうね。やはり隆造さんの支えになっていたのでは……」
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