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「あくまで噂、怪談の類です。大きなお屋敷ですし、子供たちには不思議な家に映っているのかもしれません。お気に障ったのならすみません」
「いえいえ。古いおうちですし、子供はそういうお話が大好きでしょうから。それで具体的にはどんなのが話されているの?」
「そうですね。女性が次々に消えているとか、女の叫び声が聞こえるとか。あとは、二面女が出るとか」
「二面女……初めて聞きますねえ」
「頭の後ろにも顔がある、二つの顔を持つ妖怪のことです」
「へぇ~。もしかしたら私のことかもしれませんねぇ」
「えっ?」
深見の口から素っ頓狂な声が出る。その反応にキヌは笑う。
「冗談ですよ」
「で、ですよねぇ」
「ふふっ、そんな妖怪、我が家にはいませんよ。見たことありません」と心底楽しそうに笑うキヌに深見はホッとする。それに伴い空気も少し軽やかになったように感じられた。薄れた緊張感に深見の口がいささか滑らかになる。
「ははっ、やっぱりいませんよねぇ」
「もちろんですよ。居たらびっくりしますよ」
「そうだ、隆造さんに聞けなかったことがあるんですが」
「なんでしょう」
「彼の奥さま、雪子さんについてお聞きしたいのですが。とても美しい人だったと聞いています。九年前に亡くなったそうですが、さぞ良い奥さまだったんでしょうね。やはり隆造さんの支えになっていたのでは……」
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