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「で、僕は何をすればいいんだ? というか、何をしに行くか、それさえも知らないんだが」
「俺、話したはずなんだけど」
「そうだったか? すまない、君の話は大体いつも右から左なんだ」
「お前……。わかった、もう一度説明するから今度はちゃんと聞けよ。うちの新聞に地元の成功者、社長さんに話を聞くコーナーがあるんだが、今日はそのインタビュー。地元の豪商だった水無月家、今は旅館やホテル経営で成功しているんだけど、その当主水無月隆造氏へのインタビューだ。加えて水無月家の歴史も書こうと思うからその取材もあるな。そうそう、水無月家の繁栄はこの街道での旅籠経営から始まっているそうだ」
「ああ、そんなこと言ってたような」
「頼むから当主の前で粗相しないでくれよ。忙しい中時間を作ってくれたんだから」
「僕を何だと思ってる? 僕は教師、立派な社会人だ。ちゃんとするに決まっているだろ」
「そうかい、それは良かったよ」
今だに信用してない目を向ける深見だが、霧島はどこ吹く風と言った様子で街並みを見つめていた。
「歴史ある町だな」
「存在は知っていたけど、実際来るとまた印象が違うな」
「古いものは、君が好きなものの一つじゃないのか?」
「違う、違う。古ければいいんじゃない。そこは勘違いしてもらっちゃ困るな。歴史や古さ、過去とともにあるのは間違いないんだが……」
ここで急に深見の目がらんらんと輝き出す。先ほどとは打って変わって少年のようなまなざしに、霧島はしまったと顔をしかめるが、時すでに遅し、だった。
深見は陶酔したような表情を浮かべるながらこう話す。
「やっぱり水無月家にも怪談があったよ。俺の住んでいる町からは遠いから、聞いたことなかったけど、ここら辺ではけっこう有名らしいんだ」
「はぁ……」
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