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「雪子さん、家では美しくお淑やかな水無月家夫人だったんだけど、夜になると人が変わったかのように、夜の街に出ては飲んで遊び回っていたらしい。服装も化粧も昼と夜では大違いだったそうだ。飲み屋街の常連さんの話で、それも複数人からその話が出てるから間違いないと思う。それがどう子供に伝わったか知らないが、親たちの噂を聞いたのか、二面女と結びついたっていう訳さ」
「美しき夫人の表と裏か……。一般人はよっぽどそっちの方が興味をそそられるだろうな」
「オカルトよりゴシップか。でもまぁ、世の中そんなものだよな。ただ、まだ他にもあってだな」
「まだあるのか」
「水無月家当主の母親、キヌと言ったが、彼女も相当裏表が激しい人らしい。上品な女性に見えるが怒ると怖い」
「ほぉ~、それは気をつけないと」
「昔から水無月家の女は強いって言われているみたいだ。表向きは良妻賢母で一歩引くような女性に見えるんだが、男どもを操っているのは女性たちではないかと言われていたらしい」
「水無月家の女には表と裏がある。確かに二面だな。上手いこと言っている」
雲の色は墨を足したように濃くなっていた。感じる匂いにも土と湿気が混じり始めている。
二人は街道を離れて山の方へと進んだ。一気に寂れた感じになり、まさに裏道といった様相へと変わる。そこを抜けると山のふもとに出た。目の前には整備された一本道が見える。それが水無月家の屋敷へと続く唯一の道だった。
水無月家のお屋敷はかの山を少し登ったところにあり、町を見下ろすような形で建っている。昔はここら一帯を引っ張っていた豪商、町の有力者であった水無月家。権力の象徴、誇示のためにそうなったのだろう。山を切り開き、広大な土地に建てられた屋敷は栄華を極めた証拠でもあった。
強い風が二人の間を抜けていく。ざわざわと揺れる木々。深見は顔を上げた。葉擦れの音が何故か言い知れぬ不安をあおっていく。
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