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「霊や妖怪を居ないとは言わないさ。居ないと証明出来ないんだからな」
「悪魔の証明っていうやつだな」
「ただ世の中にある怪談、心霊写真、心霊ビデオは科学的に説明出来るものばかりなのもまた事実だ。心霊ビデオなんてそれ専門に作る会社があるんだぞ。小さいときの僕はそれを知ってわずかばかり失望したよ。大人とはなんて汚い生き物なんだろうと思ったものさ」
「小さいときは信じていたんだなあ」
揚げ足取りのようにそう言ってニヤニヤ笑う深見を霧島は睨みつける。そんな彼に蹴りを一発くらわしてから何事もなかったように話を続ける。
「イギリスには真面目に心霊現象を研究しているグループがいるそうだが、そこ曰く、やはり九割は科学で説明がつくそうだ」
「九割ということは残り一割は説明出来ないんだろ」
「今の科学力では説明出来ないだけ、かもしれない」
「ああ言えばこう言うだなあ。まあそうかもしれないけどさ、でも、いるかもしれないって思うだけでわくわくしないか、照?」
「しない」
「エジソンだって晩年は心霊研究に没頭していたんだろ?」
「霊と交信する研究だな。霊界通信機だったか」
「そうそう」
「でもそこはエジソン、科学者だった。人間の魂をエネルギーと考え、エネルギーは不変ならば死後も存在すると考えた。そしてエネルギーの蓄積こそが記憶ではないかと考えたんだ。考え方は科学的だよ。君とは違う」
「ひどっ。でも、この話題は昔から平行線だったな」
「そうだ。信じる、信じないはその人の自由。毎回思うが、この議論は時間の無駄だ」
「つまらんやつ」
深見はまた空を見上げた。ぽつりと雨が頬に当たったような気がしたのだ。そっと頬に触れるものの濡れた形跡は無かったが、それでも山の匂いは雨の日のそれと同じだった。土と水と植物のむわっとむせ返るような濃厚な香り。その雨につられて思い出したのは彼の姉のことだった。
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