ラストダンスは君と

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次の日になると、礼央がお姫様抱っこをした話は学校中に広まっていた。こんな時高校生というのは本当に面倒で、絶対に変な噂を流したり、はやし立てたりする奴がいる。案の定、朝から稲葉さんは一番目立つギャルのグループに囲まれていた。礼央もお調子者の男子に、「王子様はあんな地味な子がタイプだったんだな」なんて言われて、からかわれていた。 そんな様子を見ていた稲葉さんはこっそり礼央に近付いて、 「私のせいで変な噂されちゃって・・・ごめんね?」 「ううん、別にいいよ。あんなのは言わせておけばいいんだ、気にすんな」 なんて会話を交わしていた。まるで二人だけの秘密を共有しているような親密な雰囲気が、私は面白くなかった。 帰りの時間になっても稲葉さんはまた違う女子に囲まれていて、色々言われているようだった。私はそれを横目に、桃と自転車置き場に向かった。 「いじめられてんのかな、稲葉さん。昨日のことで」 自転車の鍵を開けながら、桃がぼそっと呟く。 「そうかもね」 「まぁ、礼央は人気あるからなぁ。昨日確かにかっこよかったし」 「そうだね」 「でもちょっと可哀想だよね。稲葉さんだってわざと倒れたわけじゃないだろうし」 桃は優しい。でも稲葉さんを可哀想だと思いながらも、怖いギャルグループに立ち向かうまでの勇気はない。私だって同じだ。ちょっと気の毒だなとは思いながらも、助けるまでの勇気はない。それに礼央にお姫様抱っこされるっていう羨ましい体験をしたのだから、少しぐらいいじめられても我慢すればいいなんて、意地悪なことを思ってしまっていた。 「アイツ、本当にムカつく。金持ちの娘だかなんだか知らないけどさ、礼央にちょっと優しくされたからって調子に乗って」 次の日になっても、ギャル軍団はそんな事を言っていた。多分彼女達は、いじめられれば誰でも良いのだろう。煩い大人たちに、思い通りにならない世の中にイライラしていて、不満をぶつける場所をいつも探している。それが今回たまたま、稲葉さんだっただけだ。稲葉さんはいつも教室の端っこで読書をしているか、イヤフォンで音楽を聴いているような、大人しいタイプだった。父親は会社の社長らしく、地味ではあったが、持ち物は全部良い物を持っていた。クラスで仲の良い女子は、私の記憶だといない気がする。だから尚更、標的にしやすかったのだろう。
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