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どれくらい経っただろうか。家を飛び出した時はまだ辺りが薄暗かったが、気づけば公園の街頭が照らされるくらいに外は暗くなっていた。
ふとズボンのポケットの振動に気づくとスマホを取り出す。
画面を確認すると和幸からの電話だった。
合わせる顔がないとはいえ、何も知らない和幸は自分を待ってくれている。愛しの人が待ってくれているのだからすぐにでも迎えに行かなきゃと思うのに腰が重い。
電話に出ず、画面を眺めたまま動かずにいると前方から足音が近づいてきていることに気づいて顔をあげる。
人影に視線を向けると眉を吊り上げた和幸がスマホを掲げながら向かって来ていた。
「おい、慎文。電話出ないで此処で何してんだよ。何回も掛けたんだけど」
和幸に指摘されてスマホの画面を確認すると、電話マークのアプリに右上に赤く、『五』と表示されていた。開いてみると全て和幸からで、一時間程前から掛けられていたらしい。
「お前がいつになってもウチに来ないから、心配になってお前んち行ったら、お前の兄貴が出てきて出て行ったって言われて探したんだぞ。しかもお前の母さんも出てきて血相変えて、靴を投げてきたから怖かった……」
和幸は戻ってこない自分を心配して、危険を冒してでも敵陣に乗り込んでくれた。
終始、苦笑を浮かべていたが今まで温厚な母親しか見てこなかった和幸にとっては相当怖かったに違いない。ましてや自分たちの関係が認められていないと分かっているからこそ感じることもあっただろう。
「ごめん、和幸に怖い思いをさせて……」
「いや、いいんだ。でも、あの様子だと真面に話ができなかったみたいだな……」
僅かに和幸の声音から寂しさを感じる。
誰だって自分を否定されたら気が落ちるのは当然のことだった。
「ごめんなさい。和幸と約束した通りに冷静になって説得できなかった。話したけどダメの一点張りで、我慢できずに啖呵切ったら父さんに勘当されちゃった……。和幸に合わせる顔がない……」
涙が出そうになるのを俯いて、和幸に表情を見せぬように必死に堪える。
「そっか……。合わせる顔もなにも、これはお前だけの問題じゃないんだし、あんま気負いすんな。俺もお前の両親に認めて貰うどころか挨拶すらさせて貰えないのは悲しかった。でも、そうしてまでお前は俺を選んでくれたんだろ?」
和幸は慎文の座るブランコの目の前まで近寄ってくると、目線に合わせて屈んでくる。頭に優しく右手を置かれて、凍てついた心が溶かされていく気がした。
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