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「はぁ?それどういうことだよ。母さん知ってたのか?」
和幸もおばさんの発言に驚いたのか、飲んでいたお茶を喉に詰まらせて、咳き込みなが問う。
「ええ、だって慎文くん。毎回キラキラした顔して家に遊びにくるでしょ?たまに御飯一緒に食べていたときなんか、和幸のことずっと見ていたし、相当好きなことくらい分かったわよ。流石にあんた達が付き合うことになっていたのは驚いたけどね」
同級生や部活の先輩からは慎文は素直で分かり易い性格だとよく耳にしていたが、一番知られたら恥ずかしい人に知られてしまい身体を竦ませた。
「俺、そんなに表情に出ていたんですね。恥ずかしいです……」
隣で「ふーん」と頷いている当の本人には自分が行動に移すまで気づいてもらえなかったというのに……。
「それよりも、あんた一時期慎文くんのこと露骨に嫌っていた時あったじゃない?どういう経由で心変わりしたのかしら」
口元に手を当ててクスクスと笑みを浮かべている。和幸の母親を通して彼が自分のことを嫌っていた時期があったことを聞くのは耳が痛くなる話だった。
一時とはいえ和幸に嫌われていたという事実にショックを受け、顔を俯けていると膝の上で握っていた右手に隣から彼の左手が添えられる。
「別に……。気持ちなんて変わるものだろ」
右手は頬杖をついて素気ない様子の彼であるが、左手の温もりが慎文のことをちゃんと想っているのだと安心感を与えてくる。
そんな慎文の僅かな不安も汲み取って優しさをくれる和幸が好きだ。和幸の頼もしさに甘えたくなるが、頼っているばかりではいられない。
「あの……。俺、和幸くんを幸せにします。なので、僕と和幸くんが一緒になることを認めて欲しいと思ってます。お願いします……」
慎文はテーブルの天板に頭がつきそうなくらい深々と頭を下げた。十代の頃犯した過ちに和幸と疎遠になり、再会した時も緊張したが、それ以上に手が、体が震えている。
「母さん俺からも……。頼む」
心もとない慎文に寄り添うように、暫くして和幸も頭を下げていたのが気配で分かった。
「二人とも頭をあげなさい」
緊張が走る空気の中で、発したおばさんの口調は優しかった。頭をあげた先の真剣な表情のおばさんを目にして姿勢を正す。
「私とお父さんは、慎文くんと和幸が考えたうえで、それで幸せでいられるなら私たちは見守るだけだと思ってるわ。慎文くんは息子のように可愛がってるから嬉しいくらいだもの」
反対ではなく歓迎されていることに安堵して肩の力が抜けた。和幸もそれを聞いて安心したように息を漏らしていた。
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