chapter⑫

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「でも、どんなにウチが良くても、まずは慎文くんの家族に許しを貰ってからね」  一番の問題である実家の許し。和幸の母親も分かっているのであろう。 幾ら和幸の両親に認めて貰えたところで、実家では啖呵を切った上に勘当を言い渡されたのが事実だ。そんな状態では先へと進められない。  強行突破したところで和幸と暮らせる幸せがあっても和幸の母親に迷惑をかけ、慎文自身も後ろめたさを感じるのは確かだった。 しかし、両親に認めて貰える自信がない。 「一応、家族で話し合いました。でも許してもらえず、関係が拗れてしまいました……」 「俺も、あまりにも遅いから慎文を迎えに行ったら、『来るな、不届き者』って追い返された」  ほんの数時間前の実家に流れていたあのピリついた空気、激怒していた父親、悲しそうな母親の顔が鮮明に思い出される。 「そうね。慎文くんの両親の気持ちも分からなくないわ。家業の跡継ぎのこともあるしあそこの家は責任感が強い人たちだから、突然のことに整理がついてないのよ。それに慎文くんのことは大事な息子だもの、きっと自分たちが歩んできたように幸せでいてほしい思いからよ」  和幸の母親が言う通り本当にそうだろうか。きっと改まって何度話し合いをしたところで理解は得られないような気がした。  親の思う幸せが決して自身の幸せとは限らない。けれど、自分の思う幸せを家族に理解してもらいたい気持ちは少なからずあった。和解出来る時はくるのだろうか……。 「でも、私たちは貴方たちが元気で幸せに暮らしてくれたらそれでいいから。私たちもできるだけ貴方たちの背中は押すわ。慎文くんのお母さんとは友達だものきっと大丈夫よ。和幸をよろしくね」  おばさんの優しさに涙が出そうになる。慎文は涙を堪えながらも「ありがとうございます……。俺も頑張ります」と消え入るような声で呟いた。  和幸の優しさはおばさん譲りなのが良く分かる。身内の反対で意気消沈していたが、おばさんの言葉で少し勇気を貰えた気がした。  自分たちを否定している人ばかりではないと思うとそれが嬉しくて目頭の雫を拭いながら和幸の方を見ると、赤面させてそっぽを向いていた。  話がひと段落したところで玄関先から和幸の父親と思しき声が聞こえてくる。 「あら、お父さん、帰ってきたかしら?貴方たち夕飯まだでしょ?お父さんの晩酌でもしてあげて」 「えー。親父の相手をすると長くなるだろ」 優しく迎え入れてくれるおばさんと、おじさんの相手が億劫なのか溜息を吐く和幸。井波家の日常が垣間見えて心が癒されていく。 鼻を啜りながら何度も拭っても伝う涙は、緊張の糸が切れたからだった。 そんな慎文を見て頭を撫でて慰めてくれる和幸の手は温かかった。
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