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和幸の父親が帰宅してから、晩御飯からの晩酌に付き合っていたら午後十一時近くになっていた。
ビールが苦手な慎文でもお酒は全く飲めない訳ではない。
焼酎を呑む和幸の父親に付き合う程度に呑んでは、他愛のない話をする。「慎文くんは和幸と違って聞き上手で楽しいよー」なんて上機嫌に笑って肩を叩かれては、傍らでムスッとしている和幸をみて笑みがこぼれる。
楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
遅い時間になり、和幸の両親の粋な計らいで和幸の部屋に泊めて貰えることになった。和幸の家でお泊りは何年ぶりだろうか。
記憶にあるのは、慎文がまだ小学生の時だっただけに胸が躍る。
久しぶりに和幸の部屋に入ると流石に部屋の様子は様変わりしていた。和幸が居た頃のようなベッドはなくなり、箪笥とおばさんのコート類が仕舞ってあるラックが置いてあるだけで部屋の中は、がら空きだった。
和幸曰く、「何年も帰ってなかったし、自分のものはある程度向こうに持ってきたから」と言って完全に割り切っている様子だったが慎文にとっては和幸への想いを思い起こさせる感慨深い部屋だっただけに少し寂しさを感じていた。
部屋の中央に二組分の布団を敷いて、お風呂を借りた後に早めに床へとはいる。
どこかしら、泊まる覚悟ではいたので持参してきたスウェットを着て、布団に潜りこむと隣で眠る準備をしている和幸の方へと体を向けた。
「和幸のお父さん、面白い人だよね」
「そうか?ただの呑んだくれだろ。電気消すぞ」
和幸はリモコンで明かりを消灯させると途端に部屋の中が静寂に包まれた。此方に背を向けて寝転がった和幸が入眠にしようとしたのを見計らって、慎文も大人しく瞳を閉じてみるが部屋の静かさと布団の冷たさに途端に寂しくなる。
昨夜は和幸の想いを知り、高揚した気持ちのまま一晩中肌を触れ合わせて眠りについたので人肌が恋しい。
慎文は静かに自分の布団から抜け出すと、隣で背を向けて眠っている和幸の掛け布団を捲っては体を潜らせた。
それに気づいた和幸が振り返ってくる。
「お前、せまっ」
「和幸とくっついて寝たい」
振り返った和幸の胸に顔を埋めるようにしてだきつく。
一組の布団に大人二人は流石に狭いけど、和幸の体温が慎文を落ち着かせる。
「和幸のお母さんとお父さんが優しくて安心した。ちゃんと俺達の幸せを後押ししてくれる人が居るんだなって思えたのが嬉しかった」
「そうだな。お前は今日十分頑張ったからゆっくり休め」
頭を規則的に優しく叩かれる。それに心地よくなりながらも、和幸の匂いを嗅いでいるうちに煩悩が疼きだす。
「和幸、キスしたい」
身体をずらして和幸の顔まで近づくと、唇を重ねた。
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