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翌朝起きると慎文の姿はなかった。
例年は最終日のギリギリの時間まで居るはずの奴がいない。
部屋中探しても人の気配がなく、荷物ごと無くなっていた。
スマホを開いてメッセージを確認してみても奴からの連絡はなかった。
せめて書置きくらいは残しているだろうとリビングに出てみても文章の書かれたメモはなく、食卓テーブルには、指輪と合鍵が置かれているだけだった。
確かに恋人期間は今日で終わりだし、慎文が諦めてくれたのならば和幸の望み通りになったはずだ。
それなのに、気持ちが晴れやかにならない。
騒がしいクリスマスが終わり、折角一人で過ごす休日を手に入れることが出来たのに、ソファで映画を見ていてもゲームをしていても考えてしまうのは慎文のことだった。
ふとしたときに、昨夜の寂しそうに名前を呼ぶ声とすすり泣く声を鮮明に思い出してしまう。
でも慎文のことだからそう簡単に自分のことを諦めたなんて思えなくて、頻繁にスマホを気にして連絡を待っていたが、日が暮れても奴からの連絡はなかった。
あんなことがあった手前で気まずいのは分かるが、帰ったかどうかの連絡くらいはいれろよ……。
なんて考えれば考えるほど怒りが込み上げてきたかと思えば、自ら連絡してやるべきかと考え直す。
慎文とのトーク画面を開き、文字を打っては消しての動作を繰り返す。今まで奴にメッセージなんて送ることはしてこなかった。
奴に自ら送るなんて柄にもないことをしている自覚はあったが、何か行動を起こしていないと奴のことが気になって落ち着かなかった。
和幸は気がつけば『無事に帰ったか?』などと絵文字ひとつない文章を打ち込んでは、紙飛行機のマークをタップしていた。
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