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chapter②
この師走下旬になると毎年のように奴が訪ねて来る。
それは好意によるものからだと遠い昔から知っている。
和幸の地元は現在住んでいるところから車で片道約五時間かかる道東に位置する。市街地と違い、辺りはほとんど青い空と緑しかない。
そんなドが付くほどの田舎。決して地元が嫌いなわけではなかったが、和幸は大学進学と同時に札幌市内へ越してくるとそのままこっちで就職を決めた。
単純に就業の選択肢が多いこともあったが、一番は慎文から逃げたかったのが大きな決め手のひとつであった。
奴の実家は酪農業を営んでいて、自然と学校を卒業したら地元に残ることは決まっている。実家に帰省しない限り会うことはないだろうと思っていた。
しかし、社会人となって五年程は音沙汰のなかった奴がここ数年で自宅まで訪問してくるようになり、和幸はこの時期になると鬱々とした気分になるのが恒例になってきている。
そんな天敵のような存在である慎文でもあんなことがなければ、良き幼馴染、良き弟として扱えていたほど可愛がっていたのも事実だ。
親同士が同級生で仲が良かったのと家が隣であったことから、家族ぐるみでキャンプや海に出掛けたりすることも暫し、あった。
慎文には一回り上の兄貴が居たが、和幸の方が三つ上で年齢が近かったせいか、よく懐いていたし、一人っ子の和幸にしたら弟ができたみたいに嬉しかったのを覚えている。
和幸が中学生くらいまでは、よく公園に連れ回して自転車を教えてやったり、家でゲームをしたりして遊んでいたが、高校生に上がり、和幸に彼女が出来始めると慎文と遊ぶ機会は減っていった。
それでも、慎文が和幸を慕って、家まで遊びに来ていたので、暇なときは相手をしてやっていた。
小学生までは、天使のように可愛かった奴が中学生に上がった頃から徐々に自分の身長に追いついてくるようになり、体格も差が付き始めて物理的な焦りを感じていたが、それでも中身は全く変わらない慎文に安心していた。
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