chapter⑦

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「さぁ。知らない」  いくら親でも慎文との関係は安易に話せることではない。 脇見をして、これ以上踏み込まれぬように母親の視線から逃げているとタイミングよくインターホンが鳴り、安堵した。 和幸は自ら「俺が出てくるよ」と座席から立ち上がっては玄関先へと向かった。返事をしながら扉を開けると目の前に立っている男の姿を見て不意の訪問者に息を呑む。 「慎文……」 「か、かずゆきくん……。帰って来てたんだ……」  相手もまさか和幸が帰省していたとは思ってもみなかったのか、一瞬だけ瞠目したが直ぐに目が伏せられてしまった。  予想していた反応とは程遠い。 いつものように「カズくーん」と満面の笑みを浮かべて抱き着いてくるものだと思っていただけに、拍子抜けした。 「ああ、たまにはいいだろ……。親の顔が見たくなったんだよ。お前だってこっちに来ないのかとか言ってただろ……」 「そうだっけ……」  本当はあの後、慎文の気が病んでいないか心配だった。 親の顔が見たいのはついでで慎文の様子が気になったから帰省したのが理由の大半を占めていた。しかし、本人を前にして言えるわけがない。  言わずとも、前日に帰ることを拒んでいた慎文は、和幸が顔を見せるだけで喜ぶかと信じて疑わなかったからだ。 「おばさんに伝言……。オードブルとかこっちで用意するからいらないって伝えておいて……。じゃあ……」  慎文は伝言だけして逃げるように玄関口のドアノブを握って出て行こうとする。 「おい、慎文待てよ」 そんな余所余所しい慎文を和幸は慌てて呼び止めると声に反応して振り返ってくる。 「お前この間、急に帰っただろ」 「家の仕事があったから……」 「なら連絡のひとつぐらい入れておけよ。心配するだろ」  普段、慎文のメッセージに対して返信することがなかった自分が言うなど虫がいい話ではあるが、あからさまに取って付けたような言い訳は和幸の中で納得がいかなかった。 熱を込めて説教をしてやるつもりでいたのに返ってきた答えは「忘れてた……」の一言だけで、馬鹿らしくなってくる。 「忘れてたってお前なぁ……。幼馴染なんだから……」  醒め切った態度の男に話したところで虚しくなるだけだ。 分かっていても此処で口を閉ざしてしまえば慎文が出て行ってしまいそうで言葉を続けようとしたとき、背後から「あらぁ」と母親の声がした。  後ろを振り返ると、リビングから様子を見に来た母親が此方へと近づいてきていた。 「慎文くんじゃない。丁度あなたの話をしてたところなのよ?そうだ、和幸もいるし、上がって行かない?」 「おばさん、ご無沙汰しています。上がっていきたいところですが、姪っ子が来ているので……。すみません」  先程のやり取りで感じた冷たさとは裏腹に物腰の柔らかそうな声音で母親に向かって慎文が笑みを浮かべる。 「あら、そう。それは仕方がないわね。姪っ子ちゃんたち慎文くんに懐いてるいものね」 「はい……。ああ。でも、もう準備は出来ているので。いつでも待ってますね」 和幸の方を一切向くことなく、一礼をするとそそくさと玄関先から出て行ってしまった。 まるで空気扱いでもされたような気持ちになる。 母親がいる手前で込み入った話もできないし、不自然に引き止めることも出来ない。 慎文のことを振ったことは事実ではあるが幼馴染の関係以上に距離をおかれるとは思わず、虚しくなった。
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