chapter⑦

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何をするにも「ダメ?」と甘えたような上目遣いで確認を取ってくる慎文。 和幸の言葉を素直に訊いて、嬉しそうに返事をしてくる慎文。  今まで見てきた奴の姿は、和幸だけが見られていた姿だったのだろうか。思い返してみれば、母親と話しているときの慎文は少しだけ大人びて見えたような気がする。  それが慎文の本来の姿なのだろうが、何処か寂しく思えたのも事実だった。 「やっぱり、慎文はお前には存分に甘えているんだな。少し羨ましいよ」  康孝は戸棚の上の灰皿に灰を押し付けると「まぁ、今日はゆっくりして行けよ」と言い残して玄関先からリビングの方へと戻って行ってしまった。 自分だけが見れていた慎文の姿。 その姿も昼間の冷めたような態度からもう見られることはないのだろう。 慎文にとってはもう、幼馴染という立ち位置ではいられないと判断しての態度。櫂が言っていたように中途半端な優しさが慎文を傷つけた。 奴にとっては、和幸との関係はゼロか百かでしかない。 自分にその気がないのであれば、わざわざ様子を確かめにせず、実家に帰省などせずに、そっとして置くべきだった。 けれど、見放すことができないのは幼馴染だからか、それともそれ以上の感情を奴に抱き始めているからなのだろうか。  どちらにせよ慎文に冷たくされるのは寂しい……。 煙草を吸い終えリビングへ戻ると、康孝さんの奥さんがジャケットを羽織り、身支度をしていた。 時刻を確認すると午後九時過ぎ。 子供たちは自宅で眠る時間といったところだろうか。 慎文と遊んでいた子供たちも長女の方はダウンコート羽織って帰宅する支度をしている。次女の方はというと慎文に抱っこをされて眠っていた。  未だに父親たちと呑んでいる康孝に声を掛けてリビングから出て行く姿から、慎文もそのまま奥さんの家まで送りに行くのだろうと思った。 和幸は康孝の隣に座るものの、世代の違うものたちの話に交わることもなく、聞いていても和幸には分からないことばかりで退屈していた。 だからと言って姪っ子にかまいっきりの慎文とはなかなか話すことのできなかった寂しさから、ひたすらに卓上にあった日本酒を飲んではぼんやりとテレビを眺めていた。 普段から酒などあまり嗜まないせいか、二杯ほど呑んだところで直ぐに酔いが回り、尿意を感じて覚束ない足取りで厠へと向かう。 玄関先で「帰りたくない」と慎文に抱き着いて駄々を捏ねている次女を横目に、廊下の奥にある個室に籠る。 あれくらい自分も素直になれれば変わるだろうか。素直に慎文の気持ちを認めて、受け入れてやれれば……。
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