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「いらないって、お前が買ったものだろ」
「和幸くんが、処分しといてよ……」
「処分って……。自分の買ったものくらい自分でどうにか……」
こんなの持っていたってあの日の嬉しそうな慎文を思い出して胸が苦しくなる。だからと言って安易に捨てられるほど安価なものでもないと知っているからこそ、奴が自分で処分してくれた方が気楽だった。
「和幸くんは分かってないよ……」
「分かってないって……」
慎文が頭を抱えて消え入るような声で訴えてくる。
「好きでいるのもダメって言うなら放っておいてよ。これ以上、和幸くんを思い出すものなんか持っていたくない……」
和幸のことを思い出さないように慎文は彼なりに苦しんでいる。
彼の中ではゼロか百かでしかないなんて最初から分かっていた。
けれど、完全に慎文を突き放すのは寂しくて、どこかで慎文に『カズくんが好きだ』と詰め寄られることに居心地の良さを感じていたのかもしれない。
「お前はっ。俺と恋人じゃなきゃもう関わりたくないってことなのか?」
嫌いなはずなのに、慎文に冷たくされるより甘えられる方がいい。
このままだと慎文が本当に離れて行ってしまいそうで、和幸は感情のままに言葉を発した。
慎文の和幸に対する好意を首輪で縛り付けて繋ぎ止めるなんて苦しめると分かっていても手放してしまうのが嫌だ。
「カズく……。和幸くんがもう諦めろって言ったんじゃん」
和幸に乗せられるように慎文もその場から立ち上がると目を伏せて寂しそうな表情が月明かりに照らされた。
「俺は、諦めなきゃいけないのにこのまま幼馴染でいるのは無理だよ。だからもう、遊びに行くことはないから、これっきりにしてほしい」
慎文の言っていることはごもっともな話だ。
今まで好意全開で接してきた相手に正式に振られて、もう好きになるなとまで言われて何事もない関係に戻れるわけがない。
引き止めるのならそれ相応の覚悟が必要で、自分は自分の居心地の為に慎文との関係を繋ぎ止めたいわけじゃない。
その先を自分も望んでいるというのだろうか……。
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