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年の初めの三が日。和幸は身を震わせながら海の見える丘公園に来ていた。雪が所狭しと降り積もり、格子柵の上にも少し水分を含んだ雪が積もっていた。地元では有名なデートスポットで隣には当然のように慎文がいる。
年が明けて初めての朝、新年早々親が階下にいる中真っ裸で慎文に抱かれながら眠りについてしまったことに恥じた和幸は、静かにベッドから抜け出すと洋服を身に付けて実家へと戻って行った。
人様の家を無言で出て行くわけにもいかず、既に起きていた慎文の母親に挨拶をすると、和幸が家にいたことを突っ込まれて心臓が止まりそうなるくらい狼狽してしまったが、酔っぱらって慎文の部屋で寝てしまったと何とか誤魔化すことで難を逃れることができた。
口が裂けてもお互いの親に慎文とは幼馴染以上の関係であることを話せるわけがない。朝方、慌てた様子の慎文から電話がきて夜に初詣に行かないかと持ち掛けて参拝してきたのが昨日の話だ。
正月休みはまだ五日程あったが、帰省ラッシュに巻き込まれることは避けたくて二日の今日の夜に、電車で帰ることにした。
帰る前に此奴が行きたがっていたという丘公園に行きたくて午前中まで仕事だった慎文に時間を作ってもらい今に至る。
幾ら仕事だったからとはいえ、真っすぐに自宅で待機していた和幸を迎えにきた慎文に対して、「着替える暇くらいなら作ってやれる」と言ったものの、「作業着のままでいい」と返されてしまった。
でも、なんとなく慎文のことだから一分でも長く一緒に居たい思いからなのであろう。
慎文の仕事用の軽トラックに揺られて到着したはいいが、真冬の海岸沿いの公園は潮風の冷たさが肌にささる。本来であればロマンチックであるはずの景色も寒さで堪能する気分にはならなかった。
早く車に戻りたいところではあったが、慎文は嬉しそうに海の向こう側の景色を眺めているのでそこに水を差すようなことはできず、和幸は黙って隣で一緒に景色を眺める。
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