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マフラーとダウンと手袋で完全防寒しいる和幸の一方で、作業着に仕事用のダウンを着ているだけの慎文の寒さに強い体が羨ましい。
「俺、この数日でいいことありすぎて罰が当たらないかな?初詣もカズくんと行けるとは思わなかった……」
後ろ向きの言葉を発していても、頬が綻んでいることから、慎文が今この状況に幸せを感じていることが伺える。
「当たんねーよ。むしろ年初めからいいことがあって縁起いいだろ」
慎文は鼻を真っ赤にさせながら啜っては、和幸の問いに「うん」と頷く。
「俺、カズくんとここでずっとデートしたかった」
「ああ、知ってる。あと、誕生日の日もごめんな。気づかなかった挙句にお前に酷いことをして」
「ううん、カズくん。俺の誕生日覚えててくれてたんだ……」
慎文は大きく首を振ると、肩を竦めて呟いては照れ笑いをする。
本当は慎文がここでデートしたかったこと、誕生日が十二月二十五日であることも櫂から聞いた話ではあったが、どんな小さいことでも嬉しそうに頬を染める彼の姿を見て話す気になれなかった。
嘘をつくことに後ろめたさはあったが、慎文が幸せそうならそれでもいい気がしたからだった。
「あ、そうだ。お前、左手だせよ」
和幸はコートのポケットから指輪の箱を取り出すと、出された手の左手の薬指に指輪を嵌めた。指に嵌められた銀色の輝きを目にするなり、白い息を吐きながら優しく微笑んでくる。
「カズくんのは?」
暫く手のひらを天にかざして眺めていると、急に不安そうな表情で和幸に問うてきた。
和幸は「してるに決まってるだろ……」と頬を熱くさせながらも、左手の手袋を外し、乱暴にコートのポケットに突っ込むと奴の前に差し出した。
慎文は和幸の指に光る指輪を見て安堵すると、無言で指を絡めるようにして繋いでくる。
「毎日電話してもいい?」
「ああ、いいけど」
「やった……」
毎日電話なんて今まで恋人ができたときでもしたことがないが、遠距離恋愛になるのだから仕方がないのだろう。
「でも日中とかは止めろよ?どうせ出れないし、夜なら出てやれるから」
「うん……」
静かに頷いた慎文の握る手が更に強められた感覚がした。
一生離したくないと訴えるように、寂しそうな表情で此方を眺めてくる。
「別に永遠の別れになる訳じゃないんだから、悲しそうな顔すんなよ」
慰める為に手を握りしめてやったがどこか腑に落ちないのか俯いてしまった。
「カズくん……」
「何だよ」
「カズくんは、俺のこと……す、す……。やっぱりまだいい。今は俺のこと嫌いじゃなければ……」
段々と自信なさげに尻萎みがちになる言葉。
和幸が受け入れると言っても、慎文の中では未だに信じきれていないようだった。
それ程までに自分がどれだけ慎文のことを苦しめていたかは計り知れない。慎文のことを受け入れると覚悟した以上もっと真剣に向き合って、好きになっていきたい……。
此奴の愛を自分が奴の事を愛することで返すことができるのであれば……。
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