60人が本棚に入れています
本棚に追加
ここのまま離れてしまうのが寂しかった慎文は拒絶されながらもキスを続行させていると、和幸の右手に胸元を押されてしまい、体を離されてしまった。
「おいっ。こんなところで始めようとすんな」
「ダメ?和幸に触りたい」
甘えた声で鼻を擦りつけて、和幸からの許しを乞う。
和幸の体温を全身で感じたい。会えなかった分だけ沢山抱き合って愛を確かめ合いたい……。
そんな慎文の切なる願いも虚しく、和幸に顔を背けられてしまった。
「そんな来て早々じゃなくてもいいだろ。朝はゆっくりしたい」
「うん……。分かった……」
前例があるだけに、和幸が嫌がっていたら無理強いはしたくない。
素直に引き下がって頷いたものの、和幸と自分の熱量の違いに気持ちが萎んでいく。
そんな慎文を余所に和幸は、そそくさと慎文から抜け出すと立ち上がって、リビングへと繋がる扉の方へと向かってしまった。
虚無感を抱きながら和幸の遠ざかる背中を見つめていると、彼が急に振り返り、此方へと戻ってくる。
「いつまでもそこにいたら寒いだろ。靴脱いで中入れよ」
「うん‼」
和幸は三和土に転がった慎文の荷物を拾い上げると手を差し伸べてきて、萎んでいた心が再び膨らみ始めた。
自分でも単純であることは承知しているが、和幸に優しくしてもらえること嫌われていない証明のようで安心できる。
慎文は慌てて靴を脱ぎ、三和土に揃えて和幸の冬靴の隣に並べると彼の右手に自分の左手を重ねて、手を引かれるままにリビングへと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!