chapter⑩

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酪農業の息子である以上、結婚相手の催促をされることは全く予想をしていなかったわけではない、縁談の話。 あのままでは引き下がらない母親との話が長引きそうだったので、半ば強引に終わらせて上がってきたものの縁談話は今後続いていくような気がした。  同じように断ったとしても、彼女を連れてきなさいとか言われてしまうのだろうか。もし、そうなったときはいよいよ濁してはいられなくなる。  一層のこと今日の電話で和幸に相談してみようか。 けれど、疲れている和幸にいきなり家族の問題を相談して迷惑じゃないだろうか。 両親共々親交があるとはいえ、矢木田家の問題。 まだ付き合えて二カ月しか経っていないのだから、お互いの今後について話し合うのは早いだろうか……。 慎文にとっては早いと感じることはないけど一般的には長い年月をかけて結婚とかお互いの両親への挨拶がある。ともかく、和幸の声を聞いてこの辟易とした心を癒したい。 慎文はスマホの通話ボタンをタップして電話を耳に押し当てる。 二コールを鳴らせば出てくれると信じて待っていたが、三コール、四コールになっても通話になる気配がなかった。 少し母親と話をしていて遅くなってしまったから和幸は寝てしまったのかもしれない。 慎文は諦めて留守電になる前に通話を切ると深く息を吐いた。 ベッドに倒れ込み、頻繁に携帯画面を確認しながら待っていても電話が鳴らない。気が付けば二十分以上も経過していた。 和幸の電話に何度もコールを鳴らすのは、疎まれそうで気が引けたが、もう一度だけ鳴らしてみることにした。 しかし、何コールも待っていても出てくれることはなかった。 それと同時に慎文の中で不安が膨れ上がっていく。 付き合ってから和幸が電話に出ないことはなかった。  やはり毎日電話をするのは和幸に迷惑だったのだろうか。 左手の薬指の和幸との強い繋がりの証であるリングを眺めるものの、寂しさはなくならない。 「かずゆき……。会いたいな……」 慎文はスマホを放り投げて布団にうつ伏せになると、枕に顔を突っ伏した。 和幸と想い合えているはずなのに物理的な寂しさが不安に変わる。もっと和幸に自分を求められたい……。
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