chapter⑩

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建物も大きいが中庭もそれなりの面積があった。 話をして歩くには丁度いい広さで、和のテイストを感じさせる石畳や、緑の豊かな景色が先ほどの張り詰めた空気を緩和させる。 石造りの庭園灯などもあり、夜になるとかなり雰囲気がありそうな庭だった。  深呼吸をすれば外の空気が美味しく感じて、母親に対する怒りも少しだけ落ち着かせることができた。 それによって果那さんとも軽く世間話をする余裕ができた。  ゆっくりと歩いて会話するなかで、ガラス張りのラウンジから此方の様子を伺ってくる両親の視線が気になりはしたが、解放感があった。  一通り歩き回ったあとで、石造りのベンチに腰を掛けるように促す。果那さんはベンチに大判のハンカチを敷くと着物の裾を気にしながらゆっくりと腰掛けていた。  会話をしていくうちに、果那さんは印象通りの優しい方だった。 普段は和幸と同じ札幌の中心部で会社の事務員として働いているらしく、今回は親に縁談を勧められてとのことで地元であるこの町に戻ってきたと言われた。自分より一つ下で休日にはお菓子作りをして過ごしているという。 結婚したら良妻賢母になりそうな素敵な女性であった。  しかし、どんなに素敵な人でも自分が恋愛感情を抱いているのは和幸だけ、果那さんには丁重に断らなければならなかった。 「あの……」  腰を掛けて落ち着いたタイミングで、慎文は話を切り出そうと喉を鳴らしたところで、第一声を発したのは果那さんの方だった。 「ごめんなさい」 「え?」  突然の謝罪に、首を傾げて唖然とする。 「私、慎文さんとはお付き合いできません。ごめんなさい」  果那さんは体を慎文の方へ傾けてくると深々と頭を下げてきた。自分も同じ気持ちで居ただけに拍子抜けする。 「慎文さんが悪いわけではないんです」  驚きのあまり、唖然としていた慎文を怒ったと捉えたのか、果那さんは顔を勢いよく上げると慌てて首を大きく振る。 「別に、僕は怒ったりしないんで大丈夫です」  その気はなかったとはいえ、多少の振られたショックはあったものの、同時に胸を撫で下ろしていた。 「違うんです。慎文さんは男性の方なのにお料理が得意だとか素敵ですし、姪っ子さんが大好きでよく遊んでいらっしゃるなんて、凄く家族思いの良いお父さんになりそうだとは思うんです。だけど私、今は恋愛とか結婚に興味がなくて……。今の仕事が楽しくて満足なんです」 「なら縁談なんか受けるなって話なんですけどね」と自傷の笑みを浮かべる果那さんはどこか寂しそうで、彼女も彼女なりの事情があるのだと察した。
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