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「結婚適齢期だとか言われて、子供のこととかもあるし、父親が心配して持ち掛けてくれたんです。一度は断ったんですが、ゴリ押ししてくる父に押し負けて仕方がなく……。慎文さんに会って、こんなに素敵な方なのに生半可な気持ちで私と付き合うべきではないと思ったんです。なので、今回の縁談はなかったことに……」
彼女の事情を聞いて、慎文もほぼ同じ状況で母親に連れてこられただけに安堵した。
きっとお互いの親が善意でやったこととはいえ、やはり無理強いは好ましくないのだと改めさせる。
「ああ、いいえ。もちろんというか……。俺の方こそ……。この縁談乗り気ではなかったので……」
「そうなんですか?」
果那さんも初対面なのにも関わらず話してくれたのだから、自分の事情も話さないわけにいかない。
彼女の話に乗っかるようにして自分も縁談に前向きではなかったことを告げると、彼女は瞠目していた。
和幸と交際していることは今まで誰にも話せなかったことではあったが、果那さんになら話せるような気がした。真剣に聴いてくれるような気がした。
「僕、本当は好きな人がいるんです」
慎文は祈るように両手を膝の上で組むと、重たい口を開く。
「幼い時からずっと片想いしていた人で、最近ようやく付き合うことができたんです」
途中で慎文の話を遮るわけでもなく、静かに頷いてくれる果那さんは不思議と安心感がありじっくり言葉を選びながら話す。
「けれど、その人に対して母親はいい印象を持ってないみたいで……。多分、今回の縁談も僕とその人を切り離したくて立てた縁談だから、今日はここに来るまでは、お見合いの席だなんて知らなかったんです」
「慎文さんも事情を抱えているんですね……。その人は慎文さんにとってとても大切な方なんですか?」
「はい……。僕が……。もうその人しか愛せないと断言できるくらい、愛している人なんです」
正体を明かされない時点でここまでしてくる母親は、きっと相手が和幸だと知ったら猛反対してくるだろう。でも、いずれは明かさないと自分自身が幸せになれない。
ふと、神妙な面持ちで頷いて話を聞いてくれていた果那さんが、膝の上で組んでいた両手を包むように掴んできた。
「慎文さん。慎文さんはどんなに親に反対されても、その方と幸せになるべきです」
「そうかな……?」
「そうです‼本当に心から愛してる人なんてそう簡単に巡り合えるものではないです。自分の人生なんだから、自分が幸せになれる選択をしていい権利はあるはずです‼」
確かに果那さんの言う通りだった。親の言いなりで結婚をしたところで慎文には和幸の存在が大きすぎて、上手くいかないことは目に見えていた。
和幸とだけしか一緒にいたくない。愛しているのは和幸だけだと胸を張っていいはずだ。
果那さんは手を離し、ゆっくり立ち上がって慎文の正面に向き直ると右手を差し出してきた。
「お互い頑張りましょう。私は私らしく生きる為に。慎文さんはその方と幸せになれるように」
慎文は静かに頷いて彼女の右手に自分の右手を差し出した。彼女の希望に満ち溢れた瞳に励まされたような気がした。
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